夜の街

夜から人の死ぬ匂いがする
空から紫色の灰が降ってくるせいだ
生ぬるい春の風に乗ってきらきらと
降り注ぐ紫色の灰が目に入るせいだ

紫色に染まった夜の街を
獣のように瞳を光らせて
君はナイフを銜えて徘徊する
性欲と金で人間としての威厳を失った
愚かな小娘たちの黄色い髪を切り落としてやれ

君は長く前髪を垂らし
その間から夜の街を凝視する
不仕合わせな偶然を避けるために
神からの復習を逃れるために

夜の街の灯がすべて紫色に変わる
それを知る者はただ君だけ
君はダイナマイトをポケットに突っ込み
アスファルトの上を音もなく走り抜ける
真夜中の公園で人々に苛められて
死にかけている薄汚れた浮浪者を抱きしめてやれ

降り注ぐ紫色の灰が目に入って
真実が見えなくなる前に
君は天に向かって呪いの言葉を吐く
脱脂粉乳で出来た月の光では
この街の腐敗を浄化することは出来ない
君はやがて夜の街の眼球を見つけ出し
点火したダイナマイトを突き刺して
高らかに笑うのだ

夜の街が軋む
紫色の煙を上げながら
夜の街が壊れてゆく
君は高笑いしながら
崩れてゆく自分の体と共に
崩れてゆく夜の街を見つめる
あれほど憎んだ夜の街に君は今
千の肉塊となり飛び散ることで復讐する
君の耳に届いただろうか
夜の街が最後に歌ったのは子守唄だった

生ぬるい春の風がやんだ
紫色の灰はもう二度と降ってはこない


自由詩 夜の街 Copyright  2009-04-01 20:26:30
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