駅で待つ
飯沼ふるい

電車のドアが閉まる

それを見送る

乗るべき電車は
まだ来ない



僕の帰る町にも
やみそうでやまない
雨は降っているのかしらん



「あまりよく知らない人たちと
 暮らすのは
 何といいことだろうか」

幸せとは
動くことだと言った
アランの言葉



雨のなか
人の疎らな私鉄の駅で
次の電車を待つ
あまりよく知らない人たちと



白線の中で
静けさを約束しあい
ベンチに腰をおろした
僕たちの微妙な距離



空いた時間
改めて自分と世界の
距離を確かめる



ベンチの横に置いた荷物を
膝の上へ戻す

投げ出した足を正す

あまりよく知らない人への
「自分を正そうとする」
ささやかな気くばり



駅で待つこと
体を時間にあずけること

あまりよく知らない人たちとの
無言の会話を
続けること

世界の音に
耳を澄まして
僕は僕の話ばかりに
耳を傾けないこと



電車のドアが開く


自由詩 駅で待つ Copyright 飯沼ふるい 2009-01-30 19:10:34
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