蟻の子一匹
あおば

      
             081007



オリノコ川に
月が出て
野猿の群れも
眠りについた
静かな雨が降る前は
猫の子一匹騒がない

幻想と否定するだけの
器量がないから
オリノコを
檻の子とか
俺の事か
とか
悩ましいものたちが
悩む鋳物質が太刀現れて
一刀両断を願う
器量のない者を両断するにも
あまりにも広い領域で
南米大陸を両断するつもりで流れている川の
流域には
野猿の他にも
騒がしい人類が
声を潜めて群れている

蟻の子一匹入らせないと
城郭堅固を誇る有志質の
皮の財布にも
有史以来の損得感情が
きっちりとたたみ込まれているが
ぼんやりした生き物たちが
ひとしきり騒いだ後
野猿の群れが眠りについて
オリノコ川に紅い月が出て
夜がいっそう静寂になると
ゼラチン質の人々は死に絶え
見ている者は誰もいなくなり
神仙の領域となる

それを寂領と呼ぶ


自由詩 蟻の子一匹 Copyright あおば 2008-10-07 18:50:10
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