現代詩は難しい?
いとう



という問いには自分なりに一つの結論を持っている。

「現代詩は難しい?」
と聞かれたら、いつもこう答えるようにしている。
「難しいものもあるよ」と。


以前こんなことを書いた。
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=11908

要は、「言葉」という道具の使い方が、
詩を書く場合と日常とでは違うという話だ。
そしてそれは“違う”だけであって、
実は、そこに難易は関係していない。

わかりやすい言葉で書かれた“現代詩”はいくらでもある。
そしてそれらは、きちんと“現代詩”として認められている。
(もちろん「わかりやすい」と「ありきたり」は別の概念だ)
現代詩の間口は、たぶん、思っている以上に広いよ。うん。


んー。概念で説明していってもピンと来ないと思うので、
著作権無視で(笑)いくつか紹介していこうと思う。
ちょっと古いのもあるけど。

まず、以前この場所で紹介したのを3つ。リンクで。

石垣りんさん「シジミ」
ま、有名なやつ。
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=33980

吉野弘さん「祝婚歌」
この人も有名。
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=66336

小山正孝さん「雪つぶて」
この人はちょっと古いかも。でも戦後に書かれた詩です。
小山正孝さんは、
1991年に現代詩文庫から詩撰集が刊行されて、
2000年に丸山薫賞を受賞しています。
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=41496



新しい人だと、たとえば杉本真維子さん。
この人は現代詩手帖賞受賞者で、
また、「袖口の動物」という詩集がH氏賞を受賞しています。
ここでは処女詩集「点火期」の中から、「あな」という詩を。
昔、岡田有希子というアイドルが飛び降り自殺したのですが、
それを題材にしています。



あな


四谷三丁目、サンミュージックビルの前を友達と通った。
ねえここでしょ?
そうここここ。
ここで自殺したんだよね。
そうここで自殺したんだよ。
たしか頭はこの辺りで、足はこっち向きだったよね。
うん、あの週刊誌で見たよ。
こんな感じ、だったよね。
そう…いやでもちょっと違う、腕はたしか上げてたって。
え、じゃあこう? あ、ちょっと待って、
こうだ、で、顔はこうやって右を下にしてたんだよ。
わたしは、黒いマジックを取り出してそのまわりを囲んだ。
できた?
できたよ。

そうだよね、ここだよね、ここでこんなふうに死んでたんだよね。
友達は返事をしなかった。
そしてそのまま、二度と起き上がらなかった。




次は同じH氏賞つながりで、
山本純子さんの「あまのがわ」という詩集から「牧場にて」という詩を。



牧場にて


たんぽぽと
はこべと
なずなを花束にして
やぎに贈ろうとしたら

やぎったら
うれしがって
ずんずん近づき
なんどもわたしの足を踏んづけた

雲をながめて野原を歩き
小川ではだしになろうとしたら
革ぐつのそこにもここにも
やぎの足あと

春の花束は
なんてすてき
とハートの形の足あとが
そこにもここにもつけてあった




次。北川浩二さん。
詩学新人で、ミッドナイトプレスから「涙」という詩集を出してます。
その中から「願い」を。



願い


だれもがほんとうは願っている
心に
小さな灯りがともったり
そばにいて
くれるだけでよかったり
ほんとうは願っている
これ以上何も言わなくてもよくなって
涙が浮かんだり
自分の一番いい所が
素直に出せたりすること
ほんとうは
生きることがよかったり
何か 思ってくれていたりすること

そして だれもが
ほんとうはもう願わなくともすむようにと




またちょっと有名どころに戻って、工藤直子さん。
「日本のライト・ヴァース」という編詩集(アンソロジーって言うのか?)から、
「ライオン」という詩を。短いです。



ライオン


雲を見ながらライオンが
女房にいった
そろそろ めしにしようか
ライオンと女房は
連れだってでかけ
しみじみと縞馬を喰べた





あとなぁ、いや、まだいっぱい紹介したいのあるんだけど、
残念ながら手元に詩集がありません(泣)。
んー、平田俊子さんの初期の作品群とか、
今はもう詩を書いてないけど、
榊原淳子さんって人の詩も紹介したいし、
高見順賞を受賞した田口犬男さんの「モー将軍」という詩集も
なかなかいいです。
機会があったら、ぜひ。



というわけで、何の話だったっけ?(笑)
えーと、そう。
「現代詩は難しい」と言う人がときどきいますが、
俺はやっぱり、「難しい詩だけじゃない」と、
声を大にして言いたいです。
実際、ここで紹介した作品は全部、
「現代詩」という括りで扱われています。
読んでみてどうですか?
「現代詩」という概念が、ちょっと変わってきませんか?
もしちょっと変わってくれたら、紹介した甲斐があるというものです。

ま、そんなところで。



散文(批評随筆小説等) 現代詩は難しい? Copyright いとう 2008-09-16 13:15:11
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