良い詩人は、、、
いとう



「私のひと押し詩人」というテーマでの依頼。
ひと押しというか、好きな詩人は、

1.有名で今さら紹介する必要もない人
2.ひっそりと書いていて紹介なんかされたくない人

だいたいこんな感じ。
なので、リンダ困っちゃうー状態だったりする。
あと、知り合いの詩人は一押ししない。
そういうことやるから馴れ合いだとか言われるし、
そのとおりだと思う。


死んだ詩人なら大丈夫だ。
良い詩人は死んだ詩人だ。


小山正孝。
この人は大正生まれだ。
でも、インターネットでこの人の詩を知った。



  雪つぶて


  かなしい事なんかありやしない
  恋しいことなんかあるものか
  さう思ひながらもあなたのやさしい返事を待っていた
  まぶしいような雪の朝 路傍で僕は佇んでゐた
  僕のうしろを馬車が通った
  僕のうしろを人が通った
  でも 閉ざされたままの白い二階の窓だった
  強烈なものを信じ
  自分がいいのだと思ひながら
  昨夜までのあたたかいあなたの眼ざしと声をそのまま
  僕はその時も待っていた
  明るい日はキラキラキラキラかがやいて
  するどく風がかすめてすぎた
  閉ざされたままの二階の窓
  僕は雪つぶてをつくつて いきなり どすんと投げつけた
  こなごなの窓
  僕は逃げた
  さうしてあなたをあきらめた

 
全文引用。
第一詩集「雪つぶて」より。昭和21年刊行。
「荒地」なんてメじゃないね(笑)。
戦後詩は荒地だけから始まったわけじゃないのだ。
彼は晩年になってから評価された詩人で、
1991年に現代詩文庫から詩撰集が刊行され、
2000年に丸山薫賞を受賞している。
けれど、
高校生の頃に立原道造と交友があり、
大学生の頃に「四季」に参加している。
戦前、戦中、戦後を通じて、
ずっと、詩を書いてきた人だ。

いわゆる恋愛詩、あるいは性愛詩とも言うべき作品が中心で、
詩史からは外れまくり。
小山正孝さんの詩を読んでいると
歴史なんて、後世の人が都合よく分類してるだけだと、
そんなふうに思ってしまう。
時代時代に詩人はいて、
大きな流れなんかとは無関係に、
言葉と闘っているのだ。
言葉を愛撫しているのだ。
今これを読んでいるほとんどの人が「詩人」だと思うけれど、
たぶん、そんなふうに、
僕たちは死んでいくのだ。
良い詩人は、死んだ詩人だ。

小山正孝さんの訃報はメールマガジンで知った。
2002年11月13日。享年86歳。少し、寂しかった。
サイトはまだ残っている。
縁者の方が運営しているそうだ。

「感涙亭」
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散文(批評随筆小説等) 良い詩人は、、、 Copyright いとう 2005-07-01 00:17:37
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