TAKE ME
佐々宝砂

ハルシオンを服むと嫌な夢ばかりみると
嘆いた人があったが
私はハルシオンを服むと夢をみない
パキシルを服むと夢をみない
アナフラニールを服むと夢をみない
それはそれで非常に困るので
こんや私は酒も薬も一切絶って
目眩のような音楽を聴きながら
眠りが訪れるのを待っている
眠りは臆病な癖に出かけてばかりいる弟のようで
なかなか私の元には戻らない
そのうち行ったきりになってしまって
二度と戻らないのかもしれない
そんなことになったらまたハルシオンを服まなきゃならないが
ハルシオンを服んで訪れる眠りは
借りてきた猫よりもおとなしい
眠りってのは本来おそろしく乱暴なやつで
制御できないはずなので
首に縄ひっかけるみたいに
ハルシオンでひっかけたって
もともとの味わいは出せないのだ
化学物質によって汚染され
暴虐を喪失したハルシオンの眠りは
なるほど文字通りに安寧なのかもしれないが
私の好みじゃあない
私がほしいのは
原始の無制御の混沌の眠り
私の内奥を縦横無尽にシェイクする眠り
タブーが存在しない世界に連れてってくれる眠り
汚濁の向こうにある解放の眠り
何が起きたって文句は言わない
嫌な夢だなんて言わない
そもそも夢という言葉は使わない
どうかやってきてくれ
私をいっときカオスに帰してくれ
どうか




自由詩 TAKE ME Copyright 佐々宝砂 2008-07-21 01:38:25
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