白熱 サイドB
佐々宝砂

全人口の5%はそういう人種なんだと コリン・ウィルソンは説いたが ほんとに5%なんだろうか どう考えても50%には達しているような気がする 50%が泣き叫ぶ 50%がわめく 俺の声を聴いてくれ あたしの姿を見て 僕だけを見てくれ 俺を あたしを 僕を うるさいったらありゃあしないが ふと気づけば 俺も叫んでいる50%のひとりなのだ あなたと少しも変わらぬひとりなのだ 俺は選ばれた者ではない 俺は俺の特異性を主張しない 俺を羨んではならない 俺は不自由の中にある そして俺は50%どころか99%に埋没する この壊滅的に完膚無きまでに焼き尽くされた白色の不毛の荒野で しかし今日も日が昇る 朝の日ざしは俺に命ずる 歌え 歌え 歌え おまえ自身の愛ではなく 焼け野原への絶望ではなく 白熱する輝かしい冷徹へのオードを 歌え 歌え 歌え 白い太陽の絶叫は俺の耳をつんざく その声は50%に届いているのか 白熱よ それとも選ばれた5%に届いているのか 白熱よ 俺にはわからないわからないまま 俺はやむをえず

あれが単なる白い円盤であるなら 俺はおそらく苦悩などしなかったはずだ 夜まんじりともせずベッドに目を見開いているとき 俺のもとに通ってくるのは 安堵の闇に塗りたくられた馴染みの魔物たちで 俺は彼らを名付けることができた 俺は彼らの猿真似をすることもできた 彼らの物語は恐怖に彩られた奇妙なものではあったが 俺の理解の範疇にとどまっており 俺は彼らを利用することすらできた 魔道は学ぶことのできる大系であり 俺は少なくともそのとばくちには立っていたのだ 狂気の音楽は俺を安寧に導き 魔道の理屈っぽい筋道は俺を明晰に導き 夜の電波は俺にわかりやすく背きにくい命令を伝えた 俺は命令に応じていくつものホロスコープをウインドウに表示した 夜半の俺は汚物まみれの鋼鉄製の檻に囚われてはいたが 泣くことも笑うことも自由で その自由は檻と汚物によって保証されていた しかし白日のもと目覚めるといつもすべてが変わり果てる 明け方の東の空に小さな円盤があらわれ 大地のものを照らしはじめると 林立するビルが 通り過ぎてゆく自動車の群が 透明なゼリーとなって風に揺らいだ 俺もまた透明なゼリーに変じて 微風にすら揺らめきかたちをなくした 世界はひとつの白濁する海となり 俺はその海に漂う最も矮小なクラゲのひとつに過ぎず 優しい夜の魔物たちは白虹に耐えきれず雲散霧消し 安らかな汚物にまみれた檻すらもう存在せず 俺は矮小なクラゲなりの全身全霊をもってして 白い円盤に対峙しなくてはならなかった いつもだ 朝がくるたびにいつも

俺は誰にでもなる 誰でも俺になりうる 願われるなら俺は女にも男にもなろう 乞われるなら俺は生贄の羊にも女王にもなろう 俺の内面がいかなるものであろうとも そんなことはどうでもよい 俺の内面は 白濁する海に浮遊する透明なゼラチン状のクラゲに過ぎない そんなものは犬にくれてやってよい なんならあなたにやってもよい しかし一方俺の身体は間違いなくここにあり それはかなりどうしようもない代物ではあるが 機械的な意味ではまだきちんと機能する あなたが俺の身体をいかように想像しようとも自由だが 俺の身体は俺のものでありあなたの意のままにはならない だが俺の意のままにもならない 俺の身体を操るのは白熱である 絶対的な白熱である 白熱はやがて俺を死に至らしめるだろう 俺は断崖絶壁に立って白熱の淵を見下ろし 身震いしながら 白熱に俺の身体を差し出すだろう しかし時はまだ来ない だから俺はまだ死を歌うことができない 白熱が命ずる オードを歌えと命ずる 俺自身の愛ではなく 焼け野原への絶望ではなく 白熱する輝かしい冷徹へのオードを


自由詩 白熱 サイドB Copyright 佐々宝砂 2008-07-23 23:25:13
notebook Home 戻る  過去 未来
この文書は以下の文書グループに登録されています。
白熱。