ぐうぜん
あおば

                 080516




偶然と書いて
ぐうぜんと読ませる
ぐうぜんが生まれ
ぐうぜんが目覚める
ぐうぜんが欠伸をする
起きろ!
朝だ! 起きろ!

わたくしも
顔を洗う
背伸びをする
伸び過ぎて
天井に頭をぶつける
大慌てで食事して
会社に出かける
ふりをする
この町では
なにごとも
ふりをしないでは
居られない
ふりをしないと
家から
追い出される

歩いていたら
ぐうぜんに追い越される
ぐうぜんだけには
負けたくないと
足を速める
ぐうぜんの影に追いつき
ぐうぜんの影を踏む
影を残して消えたぐうぜん
わたくしは
偶然にぐうぜんに会い
ぐうぜんの影を捕らえ
我がものとする
身軽になったぐうぜんは
自由になって
偶然と名を改めて
威勢良くなり
金回りも良くなり
莫大な財産を残したが
ぐうぜんが残したわたくしの
我がものの影は
いつのまにか
わかものになり
わがままになり
朝から晩まで文句を言うだけで
なにもしない
なにもしないくせに
食事をするから
お金が掛かる
わかものになった
わがものの影を残して
会社に出かける
ふりをする
足を速める
だれかが追いかけてくる気配
わかものの
影を踏んでくれないかと
期待したが
バイクに跨っていて
まるで
スピードが違う
一瞬に追い抜かれて
行く手を塞がれる
しまった
鞄を奪われて
今週の食費も失ったら
影に食わせるものがない
腹を空かせた影の
暴れるのが怖い
無我夢中で
バイクに体当たりする
ライダーを振り落として
バイクに跨り
影を後ろに載せて
仮面ライダーのように
フリーウエイを
ウイリーしながらフル加速すると
覆面パトカーが偶然追いかけてきて
捕まった
わたくしのわがものの影はわかものになり重くなっていたのを忘れていた
スピード違反で免停になる
反則金を払えない。

わかものの影は姿が見えないから
いつでもどこでものんきだ
お腹が空くと乱暴になって暴れるのは
偶然なのか蓋然なのか判らないといったら
グウゼンなのだと一笑に付される
ひらがなになると権威を失うような顔をして
絶対的な存在として周囲を威圧するのだと
初対面のわかものにも教えられた。

これからのことも
ぐうぜんが知っていると思うのですが
再会できるかわかりません
ぐうぜんの影を返却するのを夢みて
今日を生きております。




自由詩 ぐうぜん Copyright あおば 2008-05-16 21:52:55
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