影さやかな月のもと
佐々宝砂

駱駝は人手に渡してしまった。
少しの水と、一日分の糧と引き替えに。
だから二人の娘は手をつないで歩いた、
月下の沙漠は、
はろばろと二人の前に広がっていた。

邪恋の娘ども、と囃し立てられ、
馴染みの館を出奔してまだわずかに五日。
困憊した二人の娘は、
もはや明日の身過ぎに思いを巡らさぬ。
明月の価は千金、無一物の娘たちを照らせばこそ。

二人の面差しは双子のように似通い、
魂は一つの鋳型から生まれたかのようであった。
かほどに同じい魂が、
何ゆえ器をたがえているのであろうか。
いかなイフリートの悪戯であったろうか。

幸いの星サダァル・スードは姿を見せぬ、
月光が星ぼしを霞ませてしまった。
影さやかな月のもと、
よるべなき娘たちは互いに身を寄せ合い、
相似た腕で相似た胸をかき抱いた。

月が魔法をかけたのであろうか、
否、月が魔法を解いたのであろうか。
今や二人の娘は二人ではなかった。
娘は一人きりで月下の沙漠に佇んでいた。
面をあげて、無慈悲な月を見つめた。


自由詩 影さやかな月のもと Copyright 佐々宝砂 2008-04-18 20:54:59
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