風邪の日のスカイフィッシュ




三十七度五分の微熱を利用して
交信を試みてみよう
見えないスピードで世界を飛びまわるという
スカイフィッシュ
窓の外に広がる空


誰の目にも止まらないけれど
ただ飛んでゆく
見えるのは
目を閉じて広がる宇宙を
まっさかさまにしてみた
そんなぼくだけ


ちがうんだ
ただよい続けているのではなく
もういいかげん
確認しておくれよという
未確認飛行動物からの
悲しい
テレパシーだから
キャッチして


浮遊する風船
ただよう雲の切れはし
人工衛星
金星のきらめき


星になりたかったなんて
言うなよ
ねえ 
飛んでゆく君は
悲しい色してるね


さっき かかってきた電話
天気予報は 晴れのちくもり
くり返されるラジオDJの笑い声
ひるがえる洗濯物の
はるか上空を
何も言わずにスカイフィッシュが
飛んでゆく







  【風邪の日々】


 冷たい空気がぼくの顔を刺す。吐いた息がただよう部屋。明るい光が顔に差しこみ、しばらくぼんやりとしていたぼくは、いつもの時間帯に目を覚ましたことに気がついた。しかし、頭が痛い。
 枕元にあった体温計を取り、脇にはさむ。すると頭上でママの声がした。「あら、もう起きていたのね。」ぼくの顔色を見て、計り終わった体温計を見つめると「まだ、微熱が続いてるわね。もうしばらく、学校の方はお休みしましょ。先生には言っておいてあげるから。」と言い、空調のスイッチを調節して、消えていった。しばらくすると、電話で話すママの声が響いた。足元のベランダからは明るい光がさしこみ、小鳥の声が聞こえる。
 もうしばらく、と、ママは言ったが、ぼくはこの小学校には数えるほどしか通っていない。生まれつき体が弱く、病気がちなぼくは、そのほとんどの日々を、ずっとこのように自分の部屋ですごしているのだ。その上、数日前から風邪をひいてしまったらしい。ぼくは、布団にもぐりこんだ。まだ、少しねむい。そして、体が熱い。
 朝のこの時間、それは、近所の子供達が通学し、その声でにぎわっている時間帯だ。ぼくは、その声の持ち主たちをいまだに知らない。もちろん、知ったところで何がどうなるというわけではないのだけれど。
 ただ、ぼくにとって、いつも世界というのは、この部屋の外、つまり、このドアの向こう側にしか存在していない。







       


自由詩 風邪の日のスカイフィッシュ Copyright  2008-01-10 18:26:36
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