寝台車
あおば

                 070903





寝付きが悪いのに
門司港発、佐世保行きの
各駅停車の寝台車に乗って
旅をする

ネットカフェなんて何処にもないから
疲れたままで立っているのは堪らない
道路の真ん中にも汽車が来て
ずらりと連なる寝台車の行列に
各駅停車の寝台車に跳び乗って
一晩限りの旅に出掛ける
行く先はよく分からないところ
終着駅のひとつ手前で降りて
そのままぼんやり朝を迎えるのだ

チカチカと
方向指示器を右に出し
右に曲がりますと言いながら
いつもの癖で左折する
助手席の上役は
君なんてことをと声を荒げる
こちらでよいのでしょうと同意を求めるが
しばらく行くと
怒った顔は中途半端に隠されて
方向指示器の所為にされる頃に
訪問先の大きな看板が目に入る
駐車場は何処だろう
分からないので
正門から守衛室に乗り付けて
何処に止めたらよいのか
守衛さんに
判断を仰ぐ
上司の名刺だと
かなりの距離を歩かされるのを覚悟の上だ

寝台車に乗って来れば良かった
三等の最上段でも歩かされることはなく
守衛さんに睨まれることもなく
上司の面目も損なわれることなく
みんな仕合わせでいられたのに
右と左の区別の付かない方向指示器の所為で
今日の午後はみんな不幸せな気持ち
売り込みが成功するとも思えない
顔つなぎと
上司はおっしゃるのだが
帰り道の運転には
自信がない
むろん素面だけれど
機関車が疲れているから
坂の途中で停車してしまうかもしれない
ずらりと連結された寝台車もなく
元気な青年たちも乗っていないから
自動車を押してもらうことも
運転を代わってもらうこともできないと
腹の中で舌打ちした途端
信号が赤になり
急ブレーキを踏むと
21世紀の看板が出ていて
会社の跡地は
立体駐車場になっていて
終日1500円の看板が目に付いた
上司は何処に行ったか分からない
今日の仕事は済んだから
駅の近くのラーメン屋に立ち寄って
売れ残った冷やし中華のお代わりを頼み
電車に乗って帰宅する
帰る家があるから
寝る場所もあるだろうと考えている










自由詩 寝台車 Copyright あおば 2007-09-03 22:14:01
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