別れの詩
川口 掌

君は息継ぎが苦手だからプールの真ん中で立ち止まってはいつも大きく深呼吸してる
わりと息継ぎが上手に出来る僕は昨日まで立ち止まる事も無く此処まで平気で泳いで来た
でも今僕は何故だろう息継ぎが出来ない
ほんの昨日まで泳いで来た軌跡も次第に薄れていき泳ぐ事すら忘れかけている


布団の中眠りつく前
君は僕の手に触れ小さな声でよく囁く
お願い しっかりと握り締めて
息継ぎの出来る僕にはどうにも成らなくなって仕方なくプールの真ん中で立ち止まらなければ成らない気持ちが理解出来ず
少しおざなりに軽い気持ちで握る事しか出来なかった
独りぼっちで自身の小ささをかみ締めながらそれでも尚必死で泳ごうと悩む君の姿を全く見ていなかった

今息継ぎが出来ない泳ぎ方すら忘れかけている僕は布団の中で想わず君の手をしっかりと握り締め囁いていた
強く 握り締めて ずっと離さないで

今やっと君の気持ちが判りかけてきた
今僕もプールの真ん中で立ち止まり不安に震えている
そして漠然と理解っている事
息継ぎが出来ない二人の前には明かりは届かない
このまま二人深い海の底まで沈んで逝くのだろうか
先見えぬ不安に震えながら君だけでも泳いで欲しいと願う

君の手を握り
生きたい
行きたい
逝きたい
想いが交差する




自由詩 別れの詩 Copyright 川口 掌 2007-07-26 23:16:18
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