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東の空が明けるころ
あなたはまだ
真綿の中で眠っている
朝の日のひとすじが
あなたの頬を
さくら色に染めて
はやく春がみたい
と言ったあなたよりも先に
春をみた
久しぶりの
雨の
窓叩く音が
私を招く
人影もない
真夜中の
常夜灯に雨は
照らされて
絹糸のように
白く光っている
時折過ぎる車の
雨の飛沫が
耳を掠めて
....
お隣の洗濯物も
そのお隣の洗濯物も
そのまたお隣の洗濯物も
ふんわり今日は乾くだろうと
あったかい陽射しに
目を細めずにはいられない
冬だというのに
春の匂いがするのは
あなたの
洗 ....
彼岸の頃になると
その場所は
真赤に燃えるようでありました
急な勾配の細い畦を上れば
今来た道を遠くまで
見渡すことのできる墓所
形を成さない朽ちた石版と
名も読めぬほど苔むした石碑 ....
曇った空の下では
海も鈍い色をしていた
打ち寄せる波の先だけは白く
足元に届けられて
よーく目を凝らして見てごらん
水平線が弧を描いている
停留しているタンカーが遥か沖のほうで
....
ねこになったきみとぼく
木漏れ日ゆれる
ねむの木の下で
二匹ころんと横になる
長い尻尾が自慢の
きみはしましまトラ猫で
大きな耳が自慢の
ぼくは三色三毛猫で
仲良く顔を並べて
昼 ....
はじまりは
突然ではなくて
地面に染み込んでいく
雨の速さに似ている
背後に潜む
稲妻と雷鳴の予感
と、その準備に追われる頃
夏の気配はすでに
私の踵を浮かせ始めていた
色濃 ....
蝉時雨も止んだというのに
真昼の喧騒が
じりりと
耳に焼き付いたのを
両手で塞いだ
鳥の群れが西をめざし
灯火色した空に
消えていくのを
門口に焚いた火とともに
静かに見ている
....
まどろんだまま
深く吸った息で
体中に雨が透る
窓辺においた手紙が
濡れているのは雨のせい
滲んだ青いインクの
消えかけた名前を呼んで
雨の一粒一粒が
体の中で弾ける
ソ ....
買い手のつかぬまま
何年か空き地だったお隣に
店舗兼アパートが建った
店舗といっても
コインランドリーのせいか
雨の日以外は閑散としている
アパートもまだ空いたままで
梅雨明けのあとは
....
‥もう終わりだね
呟いたのは
あなただったか
わたしだったか
照らし出された
顔だけが
暗闇に蒼く浮かんで
すぐ消えた
肌の全部が
湿った薄い膜で被われて
少しの息苦しさで
満ちている午後
畳の跡がついてしまうかしら
そう思いながらも
まるで猫の昼寝の如く
時折どこからか吹いてくる風で
意識を保って ....
それは
降りしきる雨の
隙間をぬって
遅れて届けられた
一通の手紙のように
雨と雨が
触れあう音に紛れて
見慣れた景色の
匂いの片隅
未送信のまま
閉じられ ....
雨と雨の間に
かおを出した青空に
並んで一緒に伸びをする
夏草はいつのまに
私を追いこして
掲げた手さえ届かない
ぐうんとジャンプで
きみ(夏草)にタッチ
ぐうんと伸びして
きみ(夏草)は空にタッチ ....
物語の終えた本を
閉じると同時に
欠伸をひとつ
いつの間にか外は雨
こんなに近く
ガラスを滑る雨に
今更気づいて
覗いてみたのは
深い夜
明けること
わかっていても
朝はまだ ....
静けさに
包まれて夜は
雨はとどまっても
星はみえない梅雨の空
肌の湿りは
空が落とした夏の皮膜
それとも重ねた体温
外灯が滲んで見える
青く蒼々と
今を映すその目に
私の ....
手をつないで歩けば
その瞳にも
この瞳にも
きらきらひかる
ちいさなちいさな
野の花でさえ
注:庭石菖(ニワセキショウ)という1センチくらいの小さな花です
雨を待つ君
明日を待つ私
並んで
風に揺れる午後
石垣に肩を預けて戯れは
我が身を石に初夏の景色に
それは‥
季節で言えば
今頃の
濃さを増す
木々の緑も鮮やかに
天気で言えば
曇天とも
雨天とも
言えるような
....
夏を知らせに
来たんだよ
始まりは
白だったかな
密の味は
甘かったかな
丸みを帯びた光は
瞼を下ろすたび
その裏に
微かな影を描く
碧さを含んだ風が
誘いかけても
膝を抱えたままの両腕を
微動だにしないで
閉じたままでは
何も見えない
....
点滅を繰り返す信号を
いくつ、くくれば
朝を迎えられるか試す夜
踊る、踊る
ステップを踏むのは
この足じゃなく
打ちつける雨
ゆらゆら揺れる
心ごと体ごと
壊してゆくリズム
....
名の無き道に
いつかふたりで
残した足跡を辿る
咲いた椿を
ひと目見たくて
斜陽にそっと
伸ばした指先
溢れた椿に
躊躇うばかり
枝先から
落ちた瞬間
名 ....
雨の
始めの
ひと粒
ふた粒
私だけに
与えられた
もののように
この頬を濡らす
あなたの指先に
近い温度で
つまさき立ちで
小鳥を真似て
高い空に知らしめす
両手を広げ
澄んだ少年の瞳で
囀るひばりに誘われて
五月の原っぱ
やわらかな緑が
裸の足にくすぐったくて
昨日はふり向きもしない
ぺんぺん草がかわいらしい
青い空に
浮かんだ雲を
目で追いかけて
眩しい形 ....
眠れない夜
眠らない夜
想いの行方は
彼方
銀の先は
星を射す
いくつの言葉を
集めても
満たなくて
繋げた言葉は
形を描けず
流れる星になる
めぐる
めぐる ....
久しぶりに良く晴れた朝
緩やかなカーブを描く坂道をゆく
気がつけば
坂の中腹あたりだろうか
どれくらい来たのだろう
振り返った後に
始まりはもう見えない
けれど確かな軌跡
....
色彩々の
螺旋を描いて
くちびるを震わす風に
ほころぶ花びら
さえずる鳥は枝高く
春のうららに
「なべて世は事もなし」
※「なべて世は事もなし」の部分
上田敏の訳詩を引用し ....
喧嘩の締めくくりはいつも
見えない一本の線だった
あたしがこっちで
のんちゃんはむこうね
そう言いながら
両腕を伸ばして陣地を分ける
ぜったいはいらないでね
ぜったい ....
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