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少女は長い間
窓の外に広がる海を見ていた
{ルビ籠=かご}の中の鳥のように
時折
人知れぬ{ルビ囀=さえず}りを唄っても
聞こえるのは
静かに響く潮騒ばかり
( 浜 ....
深夜の浜辺で
青白い顔をした青年は
{ルビ焚=た}き火の前で{ルビ膝=ひざ}を抱えている
肩を並べていた親しい友は
すでに家路に着いた
胸の内に引き裂かれた恋心
誰の手に ....
筆先で湛えきれず
液体が
ぽたり、ぽたり、と
滴るので
両の掌をくぼませて、ふくらみをつくり
上向きに
すこしかさねて
それをすくおうとしてみるけれど
わずかな隙間を
液体はすりぬ ....
雨を避けながら私は歩いている
傘に守られて私は歩いている
円形の
ぽっかり浮かぶその空間で
私は世界を眺めている
雨粒が傘の端から端から
あふれるように流れている
それは本来私の上に ....
はっぱ
雨にぬれて
冷たいけれど
はっぱ
お日様 出たら
うんとかがやく
ピカピカきれいに
うんとかがやく
元気 なってる
雨ふる前より ずっと
だいじょうぶ
う ....
カーテンのすきまから、
むかいの住宅の屋根のうえ、
うすくもり空を見上げる。
幾本もの電線が斜めに走っている。
窓を開けると、
わずかに残されたうすい青から、
凍えた風が吹きこむ。
....
見上げて
思い出したふりをする
ぼくの鍵盤は引き金だ
君よ
いま
その喉を奏でて
白い部屋
孕んだ嘘
おわらない左胸に
詐欺師が告 ....
最後の夜を見つけておいで
そうして
首輪をしたら そっと撫でてあげて
訳もなく泣いて 泣いて
見つけられんのを待ってんだろう
いつだって昔見た夢を塗り重ねて ....
(夏)
波音の届きそうにない
部屋でただ
いき過ぎるのを待ってる
テレビにはめ込まれた
冷たいガラスの匂いだけが
わたしに似ている
(秋)
言葉になり損ねて ....
桜は
みてきた
昔からずっと
人の恋を
年老いた樹に
こぼれる花
あわく白く
僕は
伝える
そっと桜に
想い溢れて
こぼれる花
あわく白く
春の風に
舞って ....
さよなららいおんが
動物園でさよなららいおんって
呼ばれるわけはちゃんとあって
誰かが夜の隙間で
長い眠りについたとき
悲しそうに 泣くからなんだって
だけどやっぱり
みんなはら ....
あなたは曲線で出来ていて
髪の毛
しなる腕も
無駄のないポオズ
その
なだらかな曲線を
ていねいに
なぞって
あなたの
曲線とは裏腹に
こころには
ちいさなささくれが
いっ ....
世界がスッと聞き耳を立てるから
私は黒猫になって逃げる
トレモロしはじめる胸の高鳴りと
アスファルトを飛び跳ねる
肉球のリズムが重なって
不思議な旋律を描くから
誰にも本音を ....
*
ぞうは はなが。
なんでなんっ??
ふつう せめて くちびるでいくやろお??
でも ぞうは はな。
*
きりんは あしとくび。
あしがさきのびて
まだ た ....
しごとのかえりにあるいていたら
いぬがよってきて
ぼくにこえをかけてきた
「たろうさん たろうさん」
ぼくは たろうじゃないし!
「だんごくれたらついていくよ」
こられても ....
春の陽射しに
紅い花びらが開いてゆく
美しさはあまりに{ルビ脆=もろ}く
我がものとして抱き寄せられずに
私は長い間眺めていた
今まで「手に入れたもの」はあったろうか
遠い真夏 ....
泡になりたい
そう望んだのは十七歳 夏の日
ラムネの底から生まれる
消える気泡に見とれて
曖昧な私も溶けてしまいたい
いっそ
いつか
本の一部を鋏で切り取った
一片一片を繋ぎ合 ....
冬
冬という字
それは
ゆきだるまの目とかの
くろいもの
アレで出来ている
たぶん
そう
つくしは みな
めをつぶっている
はるのにおいを
かいでいる
せのびして
せのびして
砂浜
貝がひとつ
海の広さ
貝って何年くらい生きるの?
犬になりたいと願ったことがある
大きくてまっ黒い犬になりたい
バカで舌だしっぱなしだったりして
まっ黒い服をきたひとに飼われるのだ
静かな家で
僕はよく眠るだろう
そしてバカみたいに愛して ....
長い洗濯をしていると
パンツもシャツもくつ下も
きれいになって
空を飛べるようになる
洗濯の匂いが土にしみ込み
そして全ての建築物にしみ込み
青い空で見えない
全ての恒星にしみ込んで ....
風の匂い
明るい夕方
さむくない
はじまる
はじめる
僕は
じっと力を
ためる
地図をすてて
自分をひろう
冬が来る前に
どこまでいける
大きな大きな
青 ....
一昨日
夕食を待ちきれず
ピーナツをひと袋
ぼりぼりたいらげたら
腹をくだした
昨日
{ルビ無精髭=ぶしょうひげ}を{ルビ剃=そ}り忘れたまま出勤し
一日青白い顔で吐き気をこら ....
たまねぎパリリ
皮をむいて刻みます
おきまりで涙が出ます
ついでにすこし
泣いてみます
じゃがいもクリリ
むいていきます
船乗りになった気分で
いくらでも
樽イッパイ ....
団地の掲示板に
吊り下げられたままの
忘れ物の手袋
歩道に
転がったままの
棄てられた長靴
{ルビ棚=たな}に放りこまれたまま
ガラスケースの中に座っている
うす汚れた ....
(みえる?)
みえるよ
(きこえる?)
きこえるよ
空の色も 土の声も
自分の魂の熱いゆらぎも
氷の蕾だった五感が
白い星になって咲いた
「私」という宇宙は はじまった ....
ぶたさんが這っている。
ぷひっと、
腕を這っている。
ぶたさんは、
こぶたさんで、
産毛をつかんで、
ぷひっぷひっ。
ぶたさんは、
ぴんくだ。
....
とおく
でんしゃに
なんじかんものって
そとのけしきは
ぼくにちからをくれるけど
いまは
みたくなくて
たくさんのおもいで
くりかえす
あたたかいきもちのまま
おわるな ....
透きとおる真昼に
日常が、消えていく
八月に買った青いびいどろは
もう割れた
観覧車に乗りたいと言ったのは
あのひとのほうだった
てっぺんに着いても
世界はちっとも見えなくて ....
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