すべてのおすすめ
{ルビ梔子=くちなし}の満開の下へは
決して近寄ってはいけない
『クチナシの木の満開の下』
子が出来ぬ
という理由で離縁された女は
梔子の花しか食べられなくなった ....
写真を撮り始めたのは
去年の二月のことだ
私の仕事は
月の表面を映し
氷があるかどうか確かめること
私は
しがない月探査機だ
『優秀の湖に眠る』
物心がつい ....
旅先で
必ず訪れる旅館があって
其の庭には
花をつけない
見事な桜が佇んでいた
花をつけないのは
私のせいなんですよ
と
其処の女将は笑う
彼女は ....
夏休みにしか帰らない
実家の銭湯には
青い富士山の変わりに
緑のペンキが色あせ
ボロボロに古びた
一匹の龍の壁画が
どん と
風呂場一面を支配している
田舎のせいか
夏場 ....
空気は夏色に染まり
空の青さにも透明が混じると
今年も
『カミナリ玉』
がハシリの時期になった
深緑に走る
黒い稲妻が
球体になって
八百屋に並ぶ
値段は詐欺 ....
冬になると
海水が凍って
氷の白い泥が海に溜まる
その中で薄くはった
産まれたばかりの流氷は
波の寝返りにあっさりと壊され
お互いを削りあい
まるで蓮の葉のような
角の取れた丸い薄い氷 ....
長年この商売を続けていると
たまぁに
人が本になる瞬間を見るんです
ちょっと
作り話じゃありませんよ
お客さんにも覚えはあるでしょう
何もあたしの処みたいな古本屋じゃなくても良い
本 ....
【椿】
花嫁の紅を着飾って
貴方を待っているのです
この純潔が叶わぬならば
首を落として
夢に果てましょう
【水仙】
明後日の方向を見ているのは
白いうなじを見せるため ....
雪の降った夕暮れ
すっかり冷え込んだ空気の中で
黒いコートのポケットに手を入れると
黒い皮製の手帳にいきあたりました
そう
全てはこの手帳が始まりでした
死神の僕にとっては ....
“その名前で呼ばないで下さい”
“約束ですよ”
昔の夢から目をさますと
見なれた白い天井が水晶体に写りました
ベットから見える空の色は群青色に染まっています
いつのまにか眠って
....
“眼鏡の度があってませんよ”
俺には死神のじぃちゃんがいる
母さんの名付け親だ
父さんが死んでから
母さんは死神のじぃちゃんと二人暮しを始めた
俺が面倒を見ようかとも言った ....
旅立つ前に少し気持ちの整理をしておきたくて、少し感傷的にぼやきます。
帰ってきて気持ちが落ちついたら、削除してしまうかもしれません。
永遠の迷いの痕跡をして残しておくかもしれません。わからないけど ....
“真夜中に雨が降ると良いですね”
押さえ切れない怒りの中で
死神の言葉はそれだけしか聞こえませんでした
息子が一人暮らしを始めました
あの子にも手がかからなくなって
お互いに二つ ....
“言葉にはきちんと止めを刺してあげなさい”
俺のじぃちゃんは死神だ
母さんの名付け親だから
血が繋がっているわけではないけど
昔からよく遊んでもらって今も良く遊びに行く
命がかかわる ....
“かえりみちでほたるをとってきてください”
平仮名ばかりのメールが届いたのは
電車が駅にすべりこんだ瞬間でした
アドレスは息子のものでしたが
明らかに使いなれていない平仮名と文調子 ....
“白い蛾が産まれると困るのでしばらく家を出ます”
“追伸”
“白い蛾を見ても殺してはいけませんよ”
こんな置手紙を残して
死神が家から居なくなりました
いつも一緒にいた名付け ....
“回転木馬は月夜が本番ですよ”
目の前をスキップしながら語る死神の後を
私は諦め半分で歩いていました
夏の果実は真っ赤に熟しているというのに
少し遅めのマリッジ・ブルーが私を襲っていま ....
“夜霧よ今夜も有り難う”
風呂場からのん気に聞こえてくる鼻歌を尻目に
私は部屋を出ていきました
前前から
死神の電波加減や頑固さには目を瞑って来ました
でも今回ばかりは限界です
私 ....
“朝は優しく起こしてください”
というのは
寝汚い死神のきまり文句です
名付け親の死神は寝起きが最悪です
五個の目覚ましなど死神の眠りの前では無力なので
死神を全力で蹴り起こすこ ....
“電車に乗る時は”
“なるべく人の多い車両にのりなさい”
“蒼い電車に出会ってはいけませんよ”
口うるさく喚く死神を後に
私はドアを閉めました
名付け親の死神は時々どうし ....
“夜に抱きしめられてはいけませんよ”
というのは
死神の口癖です
死神は
私の名付け親です
両親を無くした今
一緒にくらしています
命にかかわる問題以外は
かなりアバウトな ....
天の川輝く
零下10度の
砂漠の夜
いつものキャラバンで
友達のラクダと一緒に寝る
名前は知らない
聞き取れなかったから
それで良いと思った
夜には一枚の毛布と
ラクダが
....
浅草の古い映画館が
今年いっぱいで閉館になる
その知らせを聞いたのは
年も暮れかかっている師走だった
『映画館の恋人』
祖母は映画好きな人だった
忙しい母に代わ ....
春の朧には
狼の遠吠えが聞こえる
黄身を崩した
蒼い朧月に
マンションの屋上から
屋根の上から
銭湯の煙突から
ああほら
またも
遠吠えが聞こ ....
左目の古傷を開かれた
ぷつぷつ
と
肉の裂ける
鈍い音が
鳳仙花の匂いが
絡み付く記憶をえぐり返す
カサブタを剥がされて
マブタ肉の隙間に
奴の遺した眼球が
....