すべてのおすすめ
帽子を覗くと
中には都会があった
かぶることも出来ないので
しばらく眺めることにした
頬杖なんてしたのは
いつ以来のことだろう
自分にも重さがあったのだと少し驚く
風変わりな光景があるわ ....
僕らの虹が逝った
二人で棺に入れると
弓型に過不足なく納まった
最後まで色たちは
混じることも濁ることもなかった
一緒に入れた物がはみ出ていたので
係の人が少し押し込み
蓋は閉め ....
ドロシー、カサブランカ、
喪中の君が
家の塀で遊んでいる
数台の引越しの車が側を通り
今日もどこかで引越しがあるのだ
と何となく感じる
言葉はまだ書けないから
でも言葉はもう口に出来 ....
タイも
ヒラメも
マグロも
みんないました
白いお皿の上で
おそろいのお刺身でした
海みたい
子が言いました
まだ海を
見たことのない子でした
象の飼育係をやめて
バスの運転手になった
象の目は悲しげだ
と言うけれど
乗り降りする人たちも
体のどこか一部が悲しげだった
遠くに行きたかったのだろうか
数頭の象が停留所にいた
....
郵便配達員がポストと
駆け落ちをした
四畳半の小さな部屋だった
配達員は毎日
せっせと手紙を書いて投函した
春という字を書くと
いつも何だかくすぐったかった
集配時間には
ごめんね ....
わたしの手に
あなたの手が住み
眠り、少し起きて動くと
くすぐったいものが
わたしの中に届く
汗をかいて
わたしもうっすらと汗をかいている
守らなければならないのは
こんなに小 ....
バスに小川が乗ってきた
どこにも流れることのできない小川は
だらしなく床に広がった
立っている人は足を濡らした
座っている人は足を濡らさないように
座席の上に膝を抱えた
大学病院
....
笑っていれば良かった
好きなものに
好きなだけ名前を書いて良かった
右手に持てないものは
左手に持って
それでも持てなければ
空に放して
それから、かえる
透きとおった卵の日のこと ....
犬の耳がわたしを駄目にする
駄目になったわたしは
大きな桃になって歩く
途中遠回りして
家族に小さな菓子を買った
今日はかけっこで一等になった
娘は得意げに話してくれたが
何メートル走か ....
かつて見送られるもののために
窓はあった
そしていま窓は
残されたもののためにある
窓を開け放ち
潮の匂いのする風を迎え入れる
誰かが忘れていった
化石の海が
ひとつ置かれている
....
先端のあやふやな人が
細長い話をしていたので
窓をもち歩く人が
そっと窓をしめる
何かが入り込むように
何かが出て行こうとするから
わたしは遅い夏の陸橋
レタスが逝った日のことを話し ....
村
村って
手伝うの
橋
っこの僕
を渡り
きって
切りすぎると
手が痛くて
って
今朝は
ネクタイが
うまく
結べない
の
人がいて
人のように
背格好
があっ
....
女房と二人で梅干づくりをする。
台風が近づいている。
空は青く晴れているが、蒸し暑く
窓から入ってくる風は生暖かい。
梅の実のいい匂いがする。
昨日、兄嫁の実家からいただいてきたもの ....
(夏)
波音の届きそうにない
部屋でただ
いき過ぎるのを待ってる
テレビにはめ込まれた
冷たいガラスの匂いだけが
わたしに似ている
(秋)
言葉になり損ねて ....
あなた、むかし、ひとがいました
ひとは足で歩いてました
あなた、でもそれは、あなたではない
足の、裏の、歩くの、速さの、
それらすべては、あなたではない
あなたはまだひとではないから ....
男は速度を
なくした
それは
止まる
ことだった
男は欲した
口に言葉
手に文字
そして
生きた
自治区
と呼ばれる
区域の
辺境の村で
男が再び速度を
手に入れたと ....
大きな口を開けたワニが
天気の真似をして
すっかり晴れわたってる
魚の数匹は遠ざかり続け
それでもまだ
誰の指にも泳ぎつかない
沢山の羊を乱雑に並べて
さて、どれが正解で ....
濁った色の運河を
僕の手が流れていく
腫れ物に触るように
どこか遠慮がちな様子は
やはり僕の手らしかった
妻を抱き
娘を抱き
椅子の背もたれを掴み
いろいろな手続きをしてき ....
裏庭から
雨音に紛れて
犬が落下していく
音が聞こえる
どこまで落ちていくのか
犬にも僕にもわからないまま
犬は落下し続け
僕は音を聞き続けている
少し傲慢に生きてきて
思い ....
風が吹いていた
風のように母は声になった
声のように鳥は空を飛んで
鳥のように私は空腹だった
空腹のように
何も欲するつもりはなかったのに
母についていくつか
願い事をした
....
世界で一番悲しい人が笑った
花のようだった
花の名前と同じ速度で
列車は走った
良い陽が入るね
そう話す乗客たちの袖口は
等しく汚れていた
窓の外にはいつも窓の外がある
という ....
なくしたものと
もういない人とが
ありえないシーソーで
つりあってる
そんな救いのない話しか
思い出せない
と証言台で男は述べたが
語尾はすでに
空気と区別がつかなかった
街のい ....
何故降り積もったのか
僕らを組成する因子は
間違えることなく
ある日僕らを僕らにした
悲しみは毎日のように語られけれど
掌には幾ばくかの幸せが残されている
まだ誰も本当の悲しみ ....
重さ、とは
預かること
預かる、とは
許すこと
許されること
必然的に張り巡らされた
偶然によって
僕の細胞は君の細胞と出会い
やがてまたひとつの
重さとなった
雨が降って ....
母さんは夜なべをしていたけれど
手袋の類は編んでくれなかった
やがていつものようにフジヤマがやって来ると
腕相撲やカードの相手をし
それでも決してゲイシャ・ガールみたいに
振舞うこと ....
久しぶりに三人で手を繋ぐ
いつもより寒い冬
汗をかいた小さな掌は
どことなく妻に似ていた
歳を聞けば指で
三本や五本を出していたのに
今では両手の指すべてを使わなければならない ....
リモネン、セプテンバー
君の名で良かった
繋がり
繋がろうとする
僕らの身体は
いつも酸っぱくて
どこかが潔く
欠落している
育った街で
僕らに罪は無い
同じくらい
....
船をまたぐ
昨日より長くなった分だけ
自分の脚に目盛を入れる
円盤のような声で
おしゃべりをする少女たち
そのフードの中には
いくつもの星が散らばっていて
誰も知らない星 ....
階段には鍵が掛かっていた
鍵を持っている人はみな
蟹のような格好をして降りて行ったが
昨夜食べた蟹は形も違うし
赤く茹で上がって
あんなに嬉しそうではなかった
降りられない階段を見 ....
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