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壊れた飛行機が
指先に落ちていた
修理して空を飛んだ
空を飛ぶなんて
ありふれた夢のようだけれど
空に来なければ見えない景色は
確かにあった
題名のない本があったので
表紙に着 ....
椅子の背もたれに届く
夏の小さな雑音
子供になった父は
昆虫採集に出掛けたまま
帰ってくることはなかった
大事にしていた許可証が
風に飛ばされて
どこか遠くの海溝に
沈んでいく ....
深夜、ふと思い出し
夢の中でカレーライスの
分解を始める
専門の工具を使って
肉は脂身と赤身を分け
さらに赤身は一本一本
繊維のネジをはずしていく
ご飯の一粒は小さいけれど
....
色鉛筆で家を描いた
女の子が窓から外を見ていた
窓を開けてあげると
絵の中には
いい風が吹いているみたいで
女の子は気持ちよさそうに
空を眺めた
夜には星を描いた
女の子が何か ....
陽だまり、虫たちの空港
夢はいつも
そこで見ている
日々をかたどる
ため息も呟きも
散り散りになって
空のあるべき場所へと
帰っていく、と
痛みだけか残る
整備士の足首の細さ ....
まるくなる
何もない診断書
横風が吹いて
わたしは縦を思った
たくさん浴びて
湖のほと、り
泳ぎそびれた
手漕ぎボートの
車掌の後姿が
群衆に
触れた
汗、それを ....
あなたの耳の中に
階段があった
手摺はないけれど
転ばないように
わたしは一段一段
下りていく
一番下にたどり着く
幼いあなたが
膝を抱えて泣いている
もう大丈夫だよ、と ....
父とよく
キャッチボールをした
グローブも買ってもらった
適度な距離をとり
公園や河原で
父と向かい合った
数年後、もう親と
遊ぶような年でもなくなった頃
キャッチボールに ....
茶柱が立った、と言う
その声が
柔らかな水分のようで
会議室の会議の最中にも
誰かの幸せが
どこかにはあった
特急列車が通過する時の
数え切れない風圧
議長さんが小さく
手を ....
春が着いた
質感でそのことを知った
白いシーツ
草のようなところで
息を吐いて吸う
自分の内も
入れ替わり始める
良く整備された風速計の
真似をしようとして
笑ってしまった
....
線を引いていたら
昔の友だちがきて
一緒に手伝ってくれた
昔の友だちは
昔と同じように
慣れた手つきで
丁寧に線を引いていった
相変わらず上手いね
と言うと
はにかんで笑う
....
交番の蓋を開けると
砂漠が広がっていた
砂漠には机が置いてあった
引き出しはすべて
取り外されていて
古い思い出は無く
新しい思い出も
もうしまえなかった
雨上がりの
虹がか ....
ただ、青くて
細く収束する顎の形
幼い紙質の上に
設計図面を描くといつも
自動扉のところで
ふと途絶えてしまう
お昼の休憩中
遷都のようなものがあった
街のいたるところから ....
カマキリのハーモニカが落ちていた
とても小さなハーモニカだった
むかし見せてもらったものと
同じ形をしていた
困っているといけないので
姿をよく見かける草花の側に置いた
数日後窓辺 ....
誰もいない言葉
綴られただけの
八月の少年
薄色のかき氷が
風に消えていく
その飛沫
街のどこかに
沈没船が埋まっている
そんな噂が広まった
大小のスコップが売れて
大 ....
あなたが好きだった
あなたの好物はベジタブルで
わたしはベジタブルよりも
あなたが好きだった
同じ所に住んで
同じお役所で手続きをして
世界中で一番好き
なんておこがましいけ ....
雨上がりの水槽が
好きだった
誰も手を挙げなくても
ありがとう、と
目をつぶった皆に
微笑んだ先生
一番後ろで薄目の
わたしだけがほんの少し
共犯でいられた
水槽を出ていった ....
草の根と息吹と
あなた、忘れていったね
飛行船の落とし物みたいに
剝がしたり叩いたり
転んだりしながら過ごした毎日を
何と呼べば良かったのだろう
丁寧だったり雑だったり
胡麻 ....
広葉樹、飛行機の跡
吸い込まれる旧い戸籍
羽音と水分が
扇動を始める時
わたしは滑らかな
脱輪を選んだ
あなたが遠くの砂漠で
靴を並べている
人が来て靴を履いて行くと
空白を ....
いつの頃からかお風呂に
クジラが住みついている
巨大な体を丸めて
浴槽に収まっている
餌は何処かでとってくるようで
元気そうにくるくる回りながら
水浴びをしたりする
種類を調べよ ....
あなたの列車に乗った
各駅停車だった
ゆっくり発車すると
どこにも行かなかった
車窓から見える
ありふれた空や木や石に
何の意味があるのかは
わからなかったけれど
ただ美しかっ ....
水族館から
水族が溢れ出した
水族は移動を続け
乾燥地帯にも
幾ばくかの水分をもたらし
貧弱な草木を発芽させた
水族館の後には
館と館長だけが残った
館長の手の甲にはいつし ....
未明から降り始めた雪が
台所に積もっている
牧場の色彩を思いながら
わたしは冷たいサラダを
二人分作った
あなたはリビングで
新雪に埋もれたまま
詰将棋をしている
本を見な ....
青い空
白い雲
わたしは野を走る
一両の列車になって
心のすべてを
空っぽにして
食卓に並べられる青い空
本当はお惣菜がよかった
でも白い雲が出てきて
日々の感傷と一緒に
そのことも
忘れてしまった
窓は破れていて
繋ぎあわせればそれは
地図状になるけれど
何かを ....
子供の頃の夢がかなって
階段屋になった
便利な階段や
綺麗な階段をたくさん作って
みんなに感謝された
それなのに利用する人たちは
とても辛そうだった
階段たちに理由を聞いても
....
雨の初日
都会にも雨が降った
たくさんのものが濡れて
雨音の音や
雨水の水が
ふとした街路の様子を
美しく満たしていく
人混みの中で感じる
植物の吐息
どうしても
辿り着け ....
電子レンジを開ける
中には海がある
波間にレンジが漂っている
泳ぐことは苦手だけれど
意を決し飛び込む
君との二人分の
ご飯を温めたかった
何とかレンジに辿り着き
扉を開ける
....
レタスの先端
心音のひずむところ
温度の終わりに
少し触れる
つめたさ
教室みたい 、
と思う
穏やかな湾の入口を
句読点が航行する
健康的な食事
その後で
わたし、 ....
痛点を通過する
ブランコに揺られて
春を待つ間に
チェニジアの
ハイスクールも
時間が経った
珍しく向かい風の
匂いがする朝
皮膚病だらけの
野犬に看取られて
誰もが死ぬ、 ....
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