父親から電話がかかってきた
滅多に電話なんてかけてこない人だ
よほどの事がないかぎり電話をかけてこない人が
その日、その時かけてきた
電話口に出ると
いきなり
ひろしか、父ちゃんだ
....
親戚の目が横に伸びていく
奇妙な形、と思いながら
引かれた椅子に座る
袈裟がうやうやしく現れるまで
空気は露ほども動かなかった
左手に花を、右手に線香を持つ
あとは付いていくだけ
人 ....
自分は幽霊を見たことがない
父も出てこないし
母も今のところ出てくる気配がない
昔から死後の話は多い
哲学者だって哲学者として生まれ変る
事を信じていたようである
自分 ....
青春の文脈
詩の文脈
燃え上がれ
一個の炎
陶器の如き
詩の為に
君が作れ
君の文脈
それは
君が文脈で
あるから
波、持ちあがり砕ける
持ちあがり砕ける、波
わたしはいない どこにもいない
陸続と
波波
優しいケーブルがあって
ぼくに電気愛を教えてくれて
コネクターを集めるようになったんだ
優しい先生と不躾な仲間がいて
痛みと妬みと苦しみを中和するてだてを
覚えさせてくれたし
いつ ....
谷底から
這い上がって来る強風は
この山の頂きで
ぽそぽそと降る雪となる
郵便脚夫のこの俺は
向こうの国に郵便を
届けにこの山を
越えねばならない
いかにも陰気な顔をして
日に日に何 ....
足で漕ぐのは
オルガン
という名の舟
音符の旅
息でつなぐ
ときおり苦しくなって
とぎれる
生きていたという波の上
気配だけになった猫
ふんわり鍵盤の上を渡る
秋の日は
....
箸よ、おまえは美しい
未熟な身体で生まれ
生死の境を漂っていたわたしが
ようよう生にしがみつき
お食い初めをしたという
小さな塗り箸よ
遺品整理をした
そのときに
うやうやしく ....
誰に語るということもない
老いた人の呟き、そこに何があるのか
そこに道がある、人の来た道がある
ふたりの兄は死んだ、戦さで死んだ
だから戦地に送られなかった
兄たちは勉強が出来た、友人が多か ....
細胞の中で狂気は水棲生物の卵のように増殖を続けて、そのせいでこめかみの内側は微妙な痛みを覚え続けている、尖った爪の先が終始引っかかっているみたいな痛み―軽い痛みだけれど忌々しい、そんな―俺はい ....
妹がママになると判った日
母の手を取る彼女の傍らでは
今は亡き父が佇んでいた。
孫の誕生を共に喜び
元気で丈夫な子供に育つよう
そっと見守り続けているかのように。
私はほんの一瞬
....
待ちかねていた
陽の射さない
真冬のバス停
一人 二人と
去り始め
待ちかねているのは
まっている私と
知らぬ間に
尾行してきた
黒い影
ちゃりん ちゃりん
鈴が鳴る ....
光が充ちて来る
悪夢の奥から
光が充ちて来る
足場は崩れ
まさに死の淵
その時肩を揺すぶられ
目覚めて見れば顔が浮かぶ
灰色工員帽と蠢く闇
部屋の白壁が唐突に
無機質顕にのっぺら ....
『何かが足りない』
探しても探しても
『何か』が分からなくて
満たされない心は
空っぽのはずなのに
わたしの身体は日に日に重くなる
どうしてだろう?
いつ落したのだろう?
....
胸もとも
濡れてるいろの恋の花
キラキラしている色気の無い雨
潤いの
ある意味ある目が死んでいて
流す涙は阻止するプライド
寝ていたが
世界の終わりに気づいてた
あ ....
瓦が白く光っている
烏が一羽とまっている
広がる朝の光の中を
烏と瓦が交わっている
互いの輪郭守りながら
光の海を泳いでいる
空から水滴が無数に堕ちてくる
違うか
落ちてくる
あれは地球の涙だなんて
普通に生活してたら思わないだろう
だけど
毎朝
毎日
毎夜
蟻みたいにに詩が湧いてくるから
雨 ....
ぼくの隣に 腰かけて
きみは なぜか
涙ぐんでいる
話しかけると 消えそうで
涙のわけは聞けない
星空から 落ちてきた
涙のしずくが
月のひかり ....
たゆたう水の上では
うまく像を結べずに、
ゆらゆらとぼやけてしまう、
そういった運河に浮かぶ街の景色はあなたの目のようだった。
手のひらいっぱいに掬った水が、
両手の中で震えていた。 ....
あなたの体温が近づいてきた、と日を追うごとに思う。駅のプラットホームですれ違う人々も薄着になり、半袖のTシャツ姿も時たま見かける。不本意に外套を脱がされていく様は、虫なら脱皮、植物なら蕾が開い ....
そう
のぞまれて
そう
振る舞っているわけではなく、
人工的な微笑みを
見せたくはないだけなんです
どんな
冷たい女にも
なってやるわ
だれも知らないでしょう、
他人の心の ....
この身うつ
この心うつ
雨は降れ
雨は降れ
だんだら模様の
灰色の
雨は
降れ降れ
その矢で
刺された
刺された
命が
血を流す
どろろ
どろろと
血を流 ....
炎の刻印が
街に押されて
ようやく
冷たい夜が明ける
街のマリア様たちは
眠い目をこすって
もう、
明日から振り返ったとすれば
何度目の
希望を
浪費しただろう
夜 ....
横断歩道の
真ん中辺りで
立ち止まる
逆行が背中に
突き刺さって
立ち止まる
誰にも気付かれず
すれ違っていく
自動販売機の
真横に立って
空を見上げる
夕日が瞳 ....
懐かしい未知は
遠く空へと続く道
気流の音が鳴り響く
大気圏を通過して
桜色した巻き貝の
トンネル抜けて
帰還します
叔母の葬儀が 教会で始まる
司祭の語りかける 流暢な言葉に 深い人間愛を感じる
50年前に洗礼を受け 身を捧げて来た叔母の軌跡を 知らずに来た今
聖歌隊の 静かに漂う響きが 信者 ....
自分の不幸を嘆いて泣いても仕方がない
自分の人生なんだから
戦い勝ち取るしかない
人生最期の栄冠を
たゆたうなら私の喉のうちに
飛び込んできてマリア
肖像画に宿る瞳の輝きが
くもりガラスの乱反射なら
濡れたくちびるは朝に贈った口づけのあとだ
この声がスタッカートを引き起こして
アパー ....
絶望ノートを拾った
絶望的な内容が書かれていた
ゴミ箱に捨て駅に急いだ
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20