和洋折衷、さらにはカジュアルな個々の色彩が一つの流れとなって目的地である広場へと延々続く。両岸にはイカ焼きやタコ焼き、りんご飴やチョコバナナ、お面にくじ引き金魚すくいなど、食欲と郷愁を誘う魅惑の露天 ....
ドアがゆっくりと左右に開いた。無人のエレベーターに4人の子供たちが乗り込んだ。1番小さな少年がはしゃいだ声を出したので、女の子がシッと口元に人差し指をあてた。まもなくドアが閉まった。
4人は ....
チャイム、というかサイレンが鳴った。工場から響く空襲警報みたいなやつだ。市立ぼんくら高校2年乙組の教室には色んなやつがいる。既に英語の教科書のページを開いて準備万端なやつ、顔を隠すように机に伏してい ....
壁も天井も床も、何もかも白い部屋の真ん中に、白いテーブルが置かれ、テーブルの真ん中には白い籠が置かれ、その中に、白い林檎がピラミッド状に積まれている。
白い部屋には他に家具はなく、窓もない。ドア ....
時代の奔流が生んだ特別な学園があった。校庭では球児たちのかけ声が響き、青空の下練習に勤しんでいる。校庭から校舎側へ歩いて行くと、中等部と高等部の校舎が距離を置いて向かい合わせに建っている。そして二つ ....
私たちは稀少なドラゴンを撮影しに行った。標高4,222mのシヴァ山は、ドラゴンの住処の一つとして世界のあらゆる教科書に記されている。この世界の大いなる神秘は市井の人々に好奇心や甘美な心象を喚起させ、 ....
アパートの前に半壊した木造の2階建ての家があったが、今年の夏休み、地元から帰ったらきれいさっぱり壊されていた。なぜか残された白い西洋風のポーチが、敷地内に広がる茶色の地面と対照的だ。2対の細身の紅葉 ....
スタンドって知ってるかい?
精神力を具現化したもの、と言えばいいのか。まぁ、『ジョジョの奇妙な冒険』を読めば早い。
おれはスタンドが使える。ある日、突然使えるようになった。バイクを運転中、バ ....
ぼくの一番の友達、子猫のみゃーお。変な名前だと言わないでね。ぼくがつけた名前なんだ。みゃーおは雨の日に公園の側に捨てられていた。雨に濡れてふわふわの毛がぺったんこになって、とても可哀相だった。だから ....
ラララァ〜ララララル〜ラララルララァ〜ララ〜
真っ赤な太陽が地上から立ち去ろうとしている。すべての風景は陽炎に揺らめき、無数のラクダのシルエットが地平線をゆっくりと移動している。乾いた風が砂 ....
どうにも不安な夜がある――。
だいぶ前から、夜になると潮が満ちるように暗鬱な気分に浸るようになった。夜っていうのは、そういう孤独があるものだと、最初の頃は粋人ぶったりしていたが、最近はおびた ....
子供たちが野放図に電柱に貼っていった夢を剥がす仕事、時給700円。珍しい仕事に「これは」と思ったが、窓口へ持っていくのは辞めた。求人ファイルの分厚さは重複した内容によって水増しされている。目新しく新 ....
老人は青年に諭すように言った。
「中国の長城のように長い人生にも、終着点はある。生は死に対して一瞬である」
青年は答えた。
「死は生に対し、一瞬である。あまり一過性の死に囚われすぎないこ ....
銀で出来た蒸気機関車が黄金の煤煙を噴きながらプラチナのレールを走ってくる。よく見ると煤煙は大量の金粉だ。噴射され空中へ舞い上がったあと、キラキラと輝きながら草原に降り積もる。煙突から噴き出る大量の金 ....
なんばパークにて。
ネットカフェの利用料金が安くなるのは二十三時からだったが、まだ十八時だった。行くあてがなく、コンビニをハシゴしてはお菓子を買って食べた。何もすることがなく、自分だけ時間が止ま ....
いつだってそうだった。いや、まだ生涯に2度目だが、3度も4度も変わらない。
俺が30歳のときの夏。スマホの出会い系サイトで知り合った高校1年生に恋をした。よくある恋愛小説ならこれは幸せなカップル ....
僕は友達がいない。この世界で僕の存在を知る者はごく一握りということだ。果たして、これまで出逢ったごく一握りの人間のうち、僕の存在を思い返してくれる人はどれくらいいるのだろう。
いつもの如く部屋で ....
「T君は仕事の疲れを二倍にも三倍にもする」
それが彼女の別れの言葉だった。明確な悲しさも寂しさも不安もなく、途方に暮れ、部屋にぽつんと取り残された自分の身体は他人のように野暮ったかった。クリスマ ....
『聖域なき未来に少女がみた世界』
未来は悪意に満ちていた。この世はグロテスクだった。聖域は幻想だった。憂鬱な雲を糧に煌々と燃える太陽が、一筋の光を伸ばしていた。放課後、一人になるのにうってつ ....
無国籍風な外観の遊園地。
尖塔から垂れ下がった鶯色のジェットコースターのレールがコロシアム型の建物からはみ出す様に大きくカーブを描いている。
入り口はエスカレーターになっていた。この地域は治 ....
舞台にたった一人だけ。幕は無常にも降りてくる。堪らなく不安になり、足が震えてしまう。その幕が二度と上がらないことを知っているから……。
幕が閉じてしまう前に問いたい。
果たして、この世に純 ....
こんばんわ。いまパラオの海岸から沈む夕日を眺めています。地球って本当に丸いんですね。まるで手が届きそうな距離にあるんですよ、天国が。
胸の奥底に溜まっていた涙が止まらない。
神々しく輝く ....
「お兄ちゃんなに書いてんの?」
「小説」
凛が俺の肩に体重をかけてパソコンを覗き込む。凛は小学6年生の高野山生まれの少年だ。
「これ、どういう意味?」
青春を肌に感じ ....
恋愛話ではない。友情の話でもない。彼女の正体は不明のままだ。彼女が今どこで何をしているのか、知っている人がいれば教えてほしい。俺にとって、とても大事な人だから。
一
気まぐれに、 ....
放課後の実験室に犬があらわれた。学校にいる人間に見つかることなく、扉の開いた暗い部屋へ入り込んだ。イスが逆向きに置かれた机の間を匂いを嗅いだりしながら散策する。やがて一台の机の下に座り込む。
....
夏の魔法が解けかかった八月最後の夕暮れ。無邪気な子供たちの声が、セミの合唱とともに田園に響いていた。
水着姿の少年と少女は、素肌を黄金色に照らし、田んぼと森に囲まれた疎水で水遊びをしている。ま ....
三
玄関ホールで森野くんが友達数名と掲示板を見ていた。
私に気付いた森野くんは「こんにちわ」と挨拶した。私はただ頭を下げた。2人はもう他人同士の関係になっていた。森野くんが私の性質を理解 ....
一
大学の食堂でいつものように一人でヘルシーな食事を終えて食器を片づけたあと、生協へ冷やかしに行くと一人の学生から声をかけられた。
「秋山さん、あの、ちょっといいですか」
声をかけて ....
学校から帰ると部屋がチャーハンの匂いで充満していた。近所の夕飯がチャーハンなのだろう。寒いので窓を閉めた。ヒーターなど暖房器具はつけず、毛布にくるまる。ベッドの枕周りはタバコの灰、錠剤、携帯、割り箸 ....
彼らは錆びに覆われた観覧車を遊び場にしていた。一台のゴンドラに色とりどりのランドセルが並べられている。ガラスのない窓から町を眺める。自分たちの町を見ると何もない町であることがわかる。自分たちがいまい ....
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