遠くまで行く途中
だから気にしないで
時に狐の目をすることや
雲の形につまずくことを
大事なことは誰にも聞かない
大事なことは口では言えない
あといくつ黄色い蝶がいれば
韃靼海峡を渡れる ....
一人暮らしの私の家に
奇妙な動物が紛れ込んできた
害はなさそうなので
飼うことにした
白くて丸くて
わりと愛嬌がある
たてがみは赤く
瞳はつぶら
私は日中この動物を
なでて
だきあ ....
「夕暮れ症候群」というものがある
認知症の老人などに見られる症状で
夕暮れ時になるとそわそわしはじめ
そこが自分の家であるにも関わらず
どこかへ帰ろうと外へ飛び出すのだという
ある時、そうし ....
キッチンのテーブルで
言葉をこねくりまわしていると
いつしかガイコツになっている
ガイコツは書く
普段の僕が言わないことや
普段の僕が知らないことや
普段は誰にも聞けないことや
普段の世 ....
紳士が帰宅した
トレンチコートの内側に
あらゆる苦悩を抱えた顔して
ただいまも言わず
リビングに突っ伏して
苦悶に入る
うめき声すら上げそうな
夫の姿を
妻は横目で眺め
そういうこと ....
いえにかえると
やさしいいきものがいる
いやなはなしはわすれていいよ
へんなことばでころげていいよ
ひとりになってないてもいいよ
あしたのてんきをあとでみせてね
うどんとぱすたとひじきとつ ....
明日もくよくよ悩むだろう
まもなく虫歯が痛み出すだろう
カレーフェアが開催されるだろう
素敵なシャツが見つかるだろう
仕事はどうにかなるだろう
カキ氷にはカルピスが合うだろう
結局全部幻だ ....
夜の公園を歩く二人は
茂みのむこうに一匹の
アリクイがうろついているのを見つけた
なぜ、こんなところに
動物園から抜け出したのか
それともどこかで飼っていたのか
あるいは皆が知らないだけで ....
月の滴りの十日間
問いと答えが
輪舞するので
ぼくは呪文を
唱えたかった
「ヨイヨイ」
見えない蝶が
カップの縁に
しばし停泊したという
気付かないまま
飲んで ....
名前のない花を見ている
水をやってはならない
理もなく咲いた花だから
だからこそ
萎れてゆくのを見届ける
膝を抱えて
一角獣が隣で寝そべる
せめて
泣けたらいいのに
何処にいたんだ
一人でいたのか
誰かといたのか
どこのスーパーだ
何を買ったんだ
いくら持ってたんだ
どうしてその時間なんだ
どうしてその店なんだ
どうしてパスタなんだ
どうしてうど ....
アゲハに向かって
サナギの頃の
あだなを呼ぶものはおばかです
晴れたり曇ったり
賭けをする空の下
泣いたり笑ったり
旅をする蝶がいて
(幸あれ、と言ってみる)
サヨナラを言 ....
悲しみのあまり
地球の上に這いつくばっていると
マントはもっと青くなる
おめでとう
これでようやく
動物の仲間入りだよ
頭上を銀河鉄道が
通り過ぎるのを気付きもせずに
四つん這いのまま ....
あんまり心が鬱屈するので
冷たい水でも買おうと
深夜のコンビニに立ち寄った
ポケットの中をまさぐると
入っていたのはコインと星屑
どちらが使えるかわからないので
両方差し出すと
店員が受 ....
東へ行ってとまどい
西へ行っておどろき
南へ行ってためらい
北へ行ってささめく
夕日だけは聞いている
旅人の来歴を
小さな声の問わず語りを
風の通り名を
城の孤独を
....
おかえり
おかえり
誰が帰って来たか知ってるのかい
その人は本当にお父さんだろうか
その人は本当に先生だろうか
本当に夫だろうか
本当に息子だろうか
本当に
ニンゲンだろうか
幽霊み ....
だきしめる
だきしめる
秋風をだきしめる
沈黙をだきしめる
他人をだきしめる
通りすがりにだきしめる
ぼくのアリクイをだきしめる
人食いアリクイをだきしめる
雲をだきしめる
幻をだき ....
庭の手入れをしていると
どこからかぶらりと
見慣れない動物がやってきた
とても悲しい目をして
物置や車のあたりをうろついている
保健所に電話するか警察に知らせるか
本来ならばするところだが ....
真っ青な悲しみが胸に飛び込んできて
今日も列車が出て行く
チュンセがポーセを探すのは無駄
チュンセがポーセを探すのは無駄
私はどうして酸っぱいという名の犬になり
夜の川まで駆けて行く ....
スーパームーンに照らされて
稲穂が豊かに頭を垂れる
案山子は笑顔
それとも泣き顔
百年に一度の夜が
今宵もまた
街では何も起こっていない
驚くほどに何事も
そして地下深くでは
悲しみ ....
君と
アリクイと
夜の道
お祈りは
メールで済ませ
即物的な
不幸の話
長い舌が
出たり
入ったり
するのを見ている
わたしたち
永遠に眠るまで
予行練習としての ....
いないのが普通
神なんて
だから黒光りする
泣いてても仕方ないから
この世のものでない
羽を広げて
偶像が立ち並ぶ
ぎざぎざの空を飛ぶ
他人の空に
飛散して
無理する無理数 ....
ふらんけんみたいなまちなかを
とおりまみたいなぼじょうにとらわれ
うろうろさまよういきものは
いかほどにけいけんなのか
いわのように
しまのように
ふるいうたのように
たにんのそらにのよ ....
夜の学問といえば
決まってる
誰にも星が
一つ宿っていて
どの星と
どの星が
つながるか
知りたがる
さあ
天文学を
始めよう
私の星と
あなたの星が
どんな星座を
描くの ....
黙ってはいけない
布団の中の
タツノオトシゴ
外は深い夜
または海の底
徘徊する
神や泥棒
黙って二体で
寝転んでると
動物みたいな気がしない
だから呪文ぐらい
言わねばならない ....
忘れてしまえる
青いマントにくるまって
北風といっしょに
懐の金管楽器だけは
悪魔に決して見つからぬよう
どこからか鐘が鳴る
氷の海でイッカクは
国境付近でミツバチは
忘れてしまえる
....
透明な医者が
透明な患者を手術
透明なメスといのり
透明なオスとさかり
透明な血が飛んで
透明な患部が放り出される
そして訪れる
透明な治癒
空は青く
なにごともなかったかのように
....
水の都を出発したのは
十五の頃
父と叔父に連れられて
大量の宝石を買い込み
船に乗り込んだ
タルタル人の庇護のもと
海峡を渡る蝶を見ながら
砂漠を越えた
王は大いに感心する
髭を撫で ....
夕暮れの駅前。
あの人は呆然としている。
空は焼けるような橙。
自分ながら不思議に思う。
(いつも見慣れた光景なのに
どうしてこんなにあっけに取られる。
ばかなのだろうか。)
....
絵空事が好きだ
私の好きなものが
二つも入っている
ミロの絵はとてつもない
子どもの落書きのようでいて
都会の喧騒のようでいて
原始人のひらめきのようでいて
神話の亡骸のようであ ....
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