蔦に食い尽くされてしまった
君の形をした穴が空いたままになっている
太陽光線の当たるところからボロボロと
劣化していく不安から
上着を重ね 傘を差し 手袋をつけて 歩く
汗は血から出来ているのだから
汗を流す私の体は溶けているに違いない
溶けた私はシャツ ....
湿気ない黴びない腐らない
お菓子の家を建てました
フェイクスイーツのお家には
雨樋なんていらないの
そんなリアルはいらないの
ピアノの形のオルゴール
複製された印象派
微笑む少女 ....
灯籠浮かぶ川の道
真夜中の夢のように
満ちていく花の香の
中に浸って居たかった
冷たさ残す風飾り
蝶々の群れのように
飛んでいく薄紅の
真下に立って居たかった
しとしと続く梅雨 ....
晴れたら金の鈴 照留セレン
ベランダに、てるてる坊主が落ちていた。
古シャツの端切れで綿をくるんで作った顔に、点の目とにっこり笑った口が書いてある。多分先週の、長雨のと ....
真っ白な塩のようにすましているけれど
糖衣にくるまれて微笑する錠剤を尻目に自己を主張する
一瞬薄甘く そして苦く苦く
ゼリーで覆い
オブラートで包み
私は何とか此奴に対抗しようともがいて ....
羽虫を捕らえた燕が
川面をまっすぐ掬っていく
明日は雨だろう
燕は手の届きそうなくらい
低いところを飛んでいるが
私が駆け出すまもなく去っていく
黒い弾丸のように空を切り裂いて
....
録画せしはぐれ刑事の死を悼む弱気な祖父の齢思はるる
わが孫の結婚式を見て死なむ 酒飲まば出づ祖父の口癖
顔を見たくて写真を見たら
余計にさみしくなりました
涙で溺れはしないでしょうけど
半身浴ならたぶんできます
ひとの明かりが照らす夜から
星の光を洗い出して
空を見る
冷たい空気に頬を浸して
昔覚えた星の名を
思い出そう と
{引用=ベテルギウス リデル
カストル ポルックス
シリウス ....
私は抱きしめることが出来る
けれど抱きしめられることは出来ないので
ふわふわの背中に顔を埋めて泣いた
涙を吸った毛並みは重くなって冷たくなって
それが悲しくて私は泣いた
ひつじはだんまり ....
水から生まれて
山を下りる
乾いた里の
空を横切り
そうだ 燃えてしまおう
薄い翅をももいろに染め上げて
細い緋のからだで
泣く声など無いから
生まれてきて
生きているのだが
じぶんの心が動き出した瞬間
初めて思い出を作ったときのことを知らない
細胞を分かつ痛みを
形成途中にあった脳は覚えているのだろうか
意識はいつ生 ....
空色のセキセイインコが繕う羽の
ひとつ ひとつを見ていると
ふと鱗を思い出すことがある
どうやら彼らは骨格に 恐竜の名残を持っているらしい
ちょうど私たちが 体の中にしっぽを潜めているよう ....
整然 という言葉から
コスモス とつけられたらしいが
細い葉が入り乱れ
庭のコスモスは混沌としていた
それでもやはり
丸いつぼみが開くと
花びらは整然と並んでいる
神はカオス ....
どこまでものぼってゆくのです
蔓を伸ばして
空を目指して
林を覆い
木を覆い
風に翻る恨みを超えて
わたしはどこまでものぼってゆくのです
ふと
自分がどこから来たのかわからなく ....
大人になった気がしたのは
砂糖もミルクも入れないコーヒーを飲んだときより
秋刀魚のはらわたを食べたときより
歯磨き粉の薄荷を我慢できるようになったときだった
大きくなるということのあま ....
コンタクトレンズを洗います。
次に、歯を磨きます。
そして、顔に軟膏を塗ります。
今日一日、食べたものをメモします。
昨日寝た時間と今朝起きた時間、昼寝をした時間と回数を日誌につけます。
2 ....
細胞をくっつけて
これは次世代のたべものになるのではないか
と 思われたが
おいしくなかったので広まらず
現在はほぼ絶滅してしまった とか
ポテトにもトマトにもなれなかったポマトは
....
桜の葉は色づく前に枯れ落ちて
燕は街にとどまっている
クロゼットにしまい込んだ薄い上着を
着ようか着まいか迷う朝
天気予報が告げる雨は
秋雨かスコールか
山葡萄の実は青く実って
....
テレビはそこで強制終了
白髪の増えたニュースキャスターの言いたいことは何だったのか気になったけれど
もう一度スイッチを入れたところでその答えを聴くことなど出来ないと知っているので
ノートパソコン ....
目を覚ました時には
世界は満ちていた
あなたのあいが溢れだして流れ出して
私は土にしがみついていた
あいの量を覚えてあなたは
それを注いだ 朝に夜に
私は垣根をめぐりながら咲き方を考え ....
渡りゆく空がなくても
鳥かごのツバメは夏が行くほうを見る
草ひばりの声を聴きながら
日に当たる頬の熱さは
夏をしっかりと覚えているのだが
頭を垂れた稲の穂が首を振る
入道雲が突然泣 ....
泣いて明かした朝の
空の青になりたい
仮染めの色が水に溶けるように
澄みきって 広がってゆきたい
ひとそろいの翅を持っていたら
昇ろう
たとえ彷徨いながらでも
空とひとつになれるとこ ....
暗い雲の海を抜けると
街の灯りは空に溶ける闇を挟んで地平線まで続いていた
塵にすら見えない人々が
眠っているのか 起きているのか
機体が揺れると町が近づいてくる
星雲のようだった光たちが ....
祖父は校庭の ごしんえい の前で
赤い花を拾ったという
教師はそれを見つけて
花を千切ったな と怒鳴ったと
そして拳骨を食らわせた
その教師の名と
その憎々しさは今でも覚えている ....
お皿の上の
丸く盛った海老ピラフに妹は
グリンピースと人参をのっけて顔を描いた
半分食べて欠けた顔の
真一文字の口は悲しげに傾いている
幼い妹
どうか最後まで食べてやって
姉さんは風 ....
地下に茎を這わせ
自分の映し身を作りだしながら
林の下でじっとしている
木々に塞がれていなければ
もっと伸びていける 気がする のに
空を見上げたのは新芽のうちだけだった
林の土を抱き ....
真白く つるりと丸く
英字などがプリントされた
甘く可愛い錠剤は
飲むたびに感情を奪っていくようだ
青い空を見て
青いなと思い
コスモスの芽生えを見て
生えてきたなと思い
死ね ....
朝からの風の匂いで
前線の真下にいると気付いたところ
一晩じゅう置き去りにした鍋からは
酸っぱい匂い、残る悲しみ
部屋干しの洗濯物に引っかかる
濡れた髪の毛
湿ったタオル
鉛 ....
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