しりとりの詩 2nd[754]
2010 07/18 11:23
mizu K

井草6丁目と6.5丁目の空隙に
こっそり建てられた図書館への小道は
軍手をつけた不可思議な
夜の子どもたちの掲げる電球に
ふちどられてみちびかれる

あるいは
フィラメントの一瞬の惑いが
鬱積されて飽和していく
その頂点を的確に予測できる司書というものの存在が
重要なのではなく
ただ耳をかたむける鷺が1羽
そこにいてくれればよい
あるいはそこに満ちる

空調のぶんぶん
靴底のこつこつ
スキャナのぴこぴこ
新聞のぐゎさぐゎさ
喉音の、ん、ん
咳のけほけほ
くしゃみのはっくしょい
鼻水のじゅるじゅる
ガムのくちゃくちゃ
飴玉のぴちゃぴちゃ
いびきのがあがあ
舌打ちのちっちっ
手洗いのじゃばじゃば
耳からのしゃかしゃか
口からのぺらぺら
鼻からのふんふん
椅子引きのごりごり
筆記具のがりがり
傍線引きのざーざー
棚整理のしゅーしゅー
引き抜く音ごそそ
戻す音ずそそ
羽音のぶぶぶん
衣擦れのしゅしゅしゅん
バイブのぶぃうぃうぃん
着信のぴろろん
自動ドアのよっこらせ
定時のチャイムはきんこんかん
聴き飽きたドヴォルザーク

みみをとじる*

おそらくコンサートホールとともに
世界で最も
騒音に満ちた空間のひとつが
図書館である

かつて図書館にはライオンがやってきたし**
笹井さんはまちがえて図書館を建てそうになったし***
ベルリンの図書館には天使が多かった****

そしてやたら注釈の多いのに辟易して
今日はお祭りだというので
館内もお祭り騒ぎだった
それを見越して家読みを決め込んだ
君の方がおそらく正しかったのだが
御輿の上でゆられて酔いながら読むのも
屋根の上の鷺に思いをはせるのもまた
あれは
夜になれば
子どもたちの手によって提灯と
あの宮への参道が開くので


#* 谷川さんの『みみをすます』のパロディ
#** ミシェル・ヌードセン
#*** 氏の短歌より
#**** ヴィム・ヴェンダース
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