【petit企画の館】/蝶としゃぼん玉[425]
2017 07/13 04:02
ハァモニィベル



昨日まで死体の胸に
腰掛けていた その
白い猫が
すこし邪悪になりかけたとき

ちょうど、猫は、
その丘の側を通りかかった。

そこからは
荒涼とした 草葺き屋根の一軒家が見えた

目的のなかった猫は、
ふと、それに向かって歩いてみようと目標を定めた

用心深く近づいて、 見上げると 
その家に人らしき影はなかった。
苔むした林檎の樹が
すこし離れた場所にひとつ立ってるきりだ

…と思った……、

が、
樹の裏には、(なぜだろう)
蔦に覆われた入り口のない塔が、 「砦」の如く
建っているのに気づいた。

それに、一度気づいてしまった後は、(なぜだろう)

見直すたびに それが 大きくなってるように感じた。
白かった猫は
邪悪になりかけたことも忘れて
その塔の美しい憂鬱を、緑色の瞳で見つめずにおれなかった。

塔には文字が、
薄っすらと彫られていた


 《未読の塔は此処にある》


白い猫も、その周りの景色も 
 いつしか もう
すべてが、朝に覆われていた。






『未読の塔』 



スレッドへ