2015 09/12 23:09
あおば
「火花」又吉直樹著 発行者 吉安 章 発行所 (株文芸春秋社
火花と花火は似ているがまるで違う。火花はケであり花火はハレである。
著者が花火とタイトルをつけなかったのは、彼が本職のお笑い芸人であるから、確かに存在としてはハレなのだが、ハレが常態となり意識し辛くなり、常態になっているから、もはや、ハレではなくケとして意識している。気難しい現在、生活人としてもハレであり続けるのは、難しいのかもしれない。
読んでいて、特別なクライマックスが無い、きわめて現在的な小説にも思えた。天才的な先輩お笑い芸人の伝記という体裁を取っているので、作者が天才でないのは明らかで、秀才の位置に甘んじざるを得ないのは仕方が無い。お笑い芸人を詩人と置き換えても構わないくらい、類似性が有り、お笑い芸も、芸術なのだなと納得できた。これからの作者は、どうなるのか些か気に掛かる小説でも有った。
表紙の絵柄を見ると線香花火の残り火のような些か醜悪にも思える熱そうな奇怪な塊が目に付き、これが、俺たちなんだよと言っているようにも思えた。半妖怪のねずみ男を抽象化するとこんな風になるのかもしれない。鬼太郎はいつも弾けている打ち上げ花火だ。
価格は1200円+消費税 ハードカバーで、紐の栞さえ付いているのだから、200万部突破の威力を思い知る。
芥川賞が欲しくても取れなかった太宰治の顔と長文の毛筆の嘆願書を手に当惑する佐藤春夫の顔を思い浮かべていると、どこかの夜空に上がった、一瞬の火花が花火となり尾を引いて流れてゆく、これも皮肉と言うより世の必然なのであろうか。