詩集・詩誌のスレッド[302]
2009 03/10 22:32
大村 浩一

>>282

 松下育男さんの詩誌「生き事」の4号(白井明大さんがここで
教えてくれた本)の冒頭に、廿楽順治さんの「化車」という詩が載っています。
 ちょっと長い詩なのですが3月10日が詩の中に出てくるので。
 今日は約10万人が殺された、東京大空襲の日です。


夢の島にいた

ちがうものになるのだからしょうがない
くずれて
いくのではないからとあれほどいったのに
だれも
きいてくれない
大の字
になったことばかりをおぼえていた
さんがつとおか
ちがう
ものになったから
おなじかたちのところはあるけない
(廿楽順治「化車」冒頭部分)

 化車は貨車のようでもあり、南方へ行く船のようでもあり、あるいは練炭ネ
ット心中の車のようでもあり、結局どうにもならぬまま昭和から平成へ流れて
いく社会のようにも、私には感じられました。
 いまここの位置からも、体験がなくても、スローガンにならずに歴史を自分
に引きよせて描くことができる。連綿と続くこの詩には精読が必要ですが、私
にはこの作品から、詩がこの後の世界を生き伸びる可能性を教えてもらったよ
うに感じました。

かぼそい骨から
(わたし)
がだらだらながれていく
かんがえていることがやわらかいねぎみたいだ
遠近法がよわいんだよ
うずくまって
わかい職員が
でたらめな線をひいている
せんそうもにほんごもおわらない

(同 部分)

 商業詩誌でなくても、こういう貴重な仕事があちこちにあるのが詩の世界で
す。「生き事」はもしかしたらまだ在庫があるかもしれない。興味のある方は
問い合わせてみて下さい。
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