2004 12/03 19:40
佐々宝砂
本人はあまり怖くなかったのだが、他人は怖がるかも知れないので書いておく。18歳頃の話である。ある春の夜、窓の外で猫が騒いでいるような唸り声をきいて目が覚めた。起きあがろうと思ったが、起きあがれない。身体が動かない。かなり冷静な気分で、これが金縛りというものか、と考えた。だが、単なる金縛りではなかった。唸り声が、だんだんと近づいてくるのだ。窓を越え、右に左にまるでステレオ放送を聞いているみたいに立体的に動きながら、その声は確かに近づいてくる。やがて声は枕元にまでやってきた。あまり怖いとは思わなかったが、何となく、目を開けていてはヤバイと思ったので、私は目を閉じた(金縛りだったが目は動いた)。そのとき、目を閉じて他の感覚が敏感になったのだろうか、何かひどく生臭い匂いがした。何だかわからないが生きものがそこにいる、と私は感じた。唸り声と生臭い匂いは、そのまま私の頭の上にのぼってきた。皮膚には何も感じない。ただ、声と匂いだけが私の頭から足の方へと移動してゆく。それは、私の足先までやってくると、不意に気配を消した。同時に、私の金縛りが解けた。私は飛び起きて枕元にある時計を見た。夜中の1時45分だった。
当時の私はアホだったので、こりゃきっとインキュバスよルンルン♪(「ルンルン」という言葉が流行った時代であった)と大喜びで、かつ、なんで目を閉じてしまったのだろうかと悔やみ、あれをもういちど体験したいもんだと思った(別に気持ちよかったわけではない。面白かったのだぁ)。そこで、実験精神に富んだ私は、何度も同じ時間に同じシチュエイションで寝てみたり、次の年も同じ日付の同じ時間、同じ格好で寝てみたりしたのだが、その後二度と同じ現象は起きなかった。つまらん。幽体離脱できる誰か襲いにきなさい。霊体で来るなら歓迎だぞ(今もアホだなぁ私……)。