夢を見たら書き込むスレ2[149]
2007 06/27 23:58
楢山孝介

 死んでいるはずの貝が生きている。ごく小さな二枚貝で、名前はわからない。海中に沈んだ岩にへばりついているその貝が死んでいるということを、誰に言われるまでもなく理解している。それなのに貝は、足だか頭だかを伸ばして、自分の住み処を護ろうとしている。自分を、岩を。
 よく見ると岩の周りを泳いでいる小さな海老も、命あるものではない。こちらは貝よりずっとわかりやすく、腹に大きな穴が空いている。穴より後ろの身体は中空になっているようだ。しかし元気よく泳いでいる。岩の周りを、貝を愛おしむように、あるいは責め立てるように泳ぎ回っている。腹に穴が空いていても、泳げているのならば生きているのではないか、と思うのが当然のはずなのに、海老はもう何年も前に死んでいるのだ、という確信がある。
「これは珍しいですね」
 ムツゴロウが現れる。干潟ではないから、飛び跳ねる魚ではない。王国の王の方である。
「これは珍しいですよ。死んでいるのに動き続ける生き物というのは、ごくごく稀にしか見つかりません。それにほら、はっきりと意識があるように見える。貝は自分を護ろうとしている。海老は貝に死を教え諭そうとしている」
 海老はこじつけだ、と思いつつ聞き入るしかない。何を言ってもかなう相手ではない。 何しろ王だ。
「世界ではまだ七例しか報告されていません。それがここには二匹もいる。面白いですねえ。楽しいですねえ。この辺りにはまだまだいるかもしれませんねえ」
 ムツゴロウはそう言うなり、七匹の動物の死骸を放り出して見せる。きっと世界で発見された七例なんだろう。全部をこの人が所有しているのだろう。けれどどれも動いてはいない。死にながらも動き続けてきた彼らも、ムツゴロウの毒にあてられて、死者としての常識を思い出したのだろうか。どれも海にいる小さな生き物だった。それぞれの名前を聞く前にムツゴロウは消えた。海老もどこかへ行ってしまっていた。貝だけが岩にへばりついて頑張っていた。
スレッドへ