ある日突然母が壊れてしまったが、修理に出されて一ヶ月ほどで無事に直ったため、誰もが「良かったね」と言ってくれた。
　

闇夜に浮かぶ雲は、何をも覆い隠そうとするそれではなく、単なる浮遊物と化していた。
　

とりまとべればこの世界にはあなたのような容姿の人間がいなくても結構なのと、きどった調子で元女子アナウンサーの三島京子は言ったが、それはそのまま彼女自身への批判にもつながるのだと、私の鼻の形そっくりの鼻を持った彼女が、私の実子であることを知っていた私は、彼女自身の身の上について哀れに、そしていとしく思った。
　

空席だらけのがらんと暗い客席を前にして、男は一声も発さず立ち尽くしていた。
　

今年は桜を見逃したなと思っていたら、新聞の活字たちが飛び出して、桜吹雪を見せてくれた。
　

バスルームから１６ビートがきこえて、ふと、生きていてと願う。
　

風のつよい原っぱで思いだすのはギターのことだけ。
　

圧壊する潜水艦の窓に、父の船が見える。
　

ブランコでうつむいている少年の帽子には、少し止まってあげることにしてる。
　

にわか雨に傘を買って広げたら、へたくそなてるてる坊主がひとつぶら下がっていた。
　

昔みかんをごちそうになった農家を訪れると、両親に見送られて、花嫁が静かに車に乗っていた。
　

なめあうことも、ちちくりあうことも知ってしまったが、それでも終わりではないことがわかってホッとする二人、よく桜のつぼみの下にいますよね。
　

春というだけで、僕の瞳は、星座のように降りそそぐのです。
　

年老いたやまびとは、母の流した涙がしまってある青い鏡の中を、幼子のまなざしで、今日も眺めているのです。
　

思わず目をそらしてしまうものに光を当てられるようになった、それが僕の一番求めていた物語なのだった。
　

倒置法によって失われるものなど何もないと分かった、清水町で一番大きな交差点を渡っている時に。
　

初めてやったときの脳年齢は６０歳で焦ったが、何度も鍛えるうち２歳まで若返った。
　

逃げ水と追い水にはさまれて、立ち止まったら溺れてしまうという妄想を眺めている。
　

貧乏ゆすりをするたびに起こる空気の振動によってバクダッドで発射された銃の弾道が２ミリずつずれていくことを知らないままつまらない映画を見ている。
　

心臓のしびれがとまらないから、ありがとうとごめんなさい以外の言葉を探している。
　

某ヒーローは経費削減により８枚切りに。
　

某ヒーローは、何週にもわたり出演する機会がなかったせいで、うんこのようなカレーを吐いた。
　

あの家はまたカレーか、と帰宅途中匂いに呆れた彼の家でもまた、一日置きに生姜焼きであった。
　

某ヒーローに顔の一部を貰ったが、少し臭ったので、食べずに捨てた。
　

電子レンジで生卵を温めたら、ひよこが生まれた。
　

好きなものが、全部「ん」で終わってしまうから、麻美子はしりとりが大嫌いだ。
　

人生なんて死ぬまでのカウントダウンだから回り道なんてしたくなかったけど、君となら二度と帰れなくなる回り道をしたいと思った。
　

神は七日で世界を作った、締切直前に。
　

女衒が女衒でありすぎて困るのと同じくらい、詩人が詩人でありすぎて困る。
　

原　経津汰は、冷蔵庫をなんどもなんども開ける癖が直らず、ついに冷蔵庫の中で暮らすことを余儀なくされた。
　

手作りのチョコを渡せると言うことはまだ恋、愛ならば固まらずに溶ける。
　

健忘症のテストに行くと「大丈夫」と言われるのだが、同じ診断書が何枚もあることに彼は気づいていない
　

鬼に撒いた豆は空の彼方に吸い込まれていった。
　

２０年ぶりに冷凍睡眠から目覚めた恋人がチョコをくれて、その眼がとても清んでいて、僕は粘土の涙を流した。
　

小指だけの手袋の大きさになった彼女が「こういう重さに耐えられる？」と彼に問う声は小さく、しかし解けない。
　

一日中朝の町では鶏が鳴き続けて声帯が鍛えられるのでおいしい鶏肉が食べられるそうです。
　

夢遊病の姉が欲しい、と僕は呟いたの？
　

目の前にはやぶが茂っていて、かき分けて入っていくと、しゃがみ込んでアップルパイをかじっている少年を見つけた。