マリンちゃんとジョニー
しゃしゃり

マリンちゃんが入院した
急性虫垂炎だった
俺も六年生のときやった
たしか下の毛をそられたとおもう
うぶ毛だったけれど

マリンちゃんのあそこが
うぶ毛だったとは思わない
ただマリンちゃんの腹違いの兄貴の
(ただし会ったことは一度もない)
ジョニーのやつは卒倒せんばかりに心配で
心配で心配で心配で心配で
俺に毎日見舞いに行けというのさ
自分で行けばいいのに

俺は言われなくても
見舞いに行った
毎日近くの花屋さんでバラを一本買って
ジョニーからだよって
ああ俺も
まったくだめな男さ

マリンちゃんは顔色もよく
学校は一週間お休み
退屈だろうからマンガを持ってけって
それはジョニーの「ドカベン」
しかも三十二巻から三十六巻までで
読んだのかどうかはわからない

相部屋のおばさんたちは
鯛焼きなんか持っていくとよろこんで
ほんとうに可愛い可愛いと
マリンちゃんを可愛がっていた
俺は兄貴ということになっていて
マリンちゃんはいつも窓の外を見ていた

あのね

マリンちゃんが言った


別れたよ


俺はりんごの皮をむいた
ついでにみかんの皮までむいた
いらないよ、マリンちゃんは言ったけれど
俺はどうしたらいいのかわからないので
お見舞いのくだもの、
みんな皮をむいてしまった

病院から出ると
ジョニーのやつが待っていた
明日退院だってさ
俺が教えてやると
ジョニーはそうかと言ったきり
行ってやれよとは
もう言わない
ジョニー俺だって
そうそうおひとよしじゃないんだぜ

なんか欲しいものないかな
ジョニーが聞くので
そういや
ドカベンの三十七巻が欲しいってさ
てきとうな嘘をついたら
わかったと言って
もうジョニーは駆け出していた







自由詩 マリンちゃんとジョニー Copyright しゃしゃり 2006-12-26 20:20:02
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