トナカイの夢
砂木

サンタになる
と 義父が言ったのは 六十歳になったあたり
子供の頃からの夢だと言い
衣装をそろえ 駄菓子を買い込み
白い布など用意したので

義母は 義父用に衣装をつめたり
白い袋にしたり お菓子を小分けにしたり

部落の中は歩いていけるけど
隣りの部落までは 車じゃないと無理だと言うから
私が トナカイに なるしかなかった
かぶりものは いらないらしいし

会社から帰って 半身半疑のまま家に入ると
赤い衣装 帽子ひげ 白い袋 鈴を持って
サンタがいた

メリークリスマス!

条件反射で 叫んでしまって 
眼の前にしたら 世間体が吹っ飛んだ
私は 私は トナカイ

しゃべるとばれると 義父は 
小さな子供のいる家の玄関の前で
買いこんできた大きめの鈴を鳴らす

サンタが ごめんくださいというのは変だ
と なかなか考えこまれていた

やっと気付いた家の人が 驚きと不信一杯で
それでも 子供を呼んで でてくると
義父サンタは 駄菓子の入った小さな袋を渡す
そして無言で 帰るのだ
トナカイは 少し離れたところで見守りながら待った
不思議に思った子供たちが後をつけてきた
サンタとトナカイは 逃げるように立ち去った

甥にも 義父は行ってくれた
サンタが行った所に さりげなく私が行って
サンタさんだ! と わざとらしくも言いつつ
記念写真をとるつもりだった
サンタの入った後 玄関を開けると
幼稚園児だった甥が 直立不動で震えて立っていた

無言のままサンタになりきろうとした義父は
思いがけずに迫力があり
それでも後から甥は おばちゃんの家のおじいちゃんに似ていたって
ひそひそ言ったらしい まあ しょうがないよな

メリークリスマス!

ひととおりまわって家に帰ると
義母が 玄関で待ち構えていた
どうだった? わかる人いた?
人一倍 喜んでいた
夫婦サンタであった

そしてケーキを食べ 後片付けをして
駄菓子の残りを貰って 
トナカイは眠った

数年 続けた義父は 今は 頼まれた親戚の子に
行くくらいだけど

誰に頼まれたのかときく人もいて
不信がる人もいる

でもね ほんとに
夢だったんだって

メリークリスマス!

私にトナカイの夢をありがとう


自由詩 トナカイの夢 Copyright 砂木 2006-12-24 10:27:30
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