「 肉喰。 」
PULL.







目を開けると、
お腹が空いていた。
だから躯に絡み付く、
べたべたした液体を舐めた。
ぬるい液体は、
生臭くておいしくなかったけれど、
それでも舐めた。
舐め尽くした。
液体がなくなると、
そばにあった膜を食べた。
薄い膜は、
液体ほどではなかったけれど、
生臭かった。
おいしくなかった。
その膜を食べ終わると、
そこにあった殻を食べた。
部厚い殻は、
固くて食べにくかったけれど、
生臭くはなかった。
でもおいしくなかった。
固いので、
食べるのに時間が掛かった、
時間が掛かったので、
食べ終わる頃には、
お腹が空いた。
辺りを、
くんくんと嗅ぐと、
おいしい匂いがした。
とてもおいしい匂いがした。
すぐ近くだった。
隣いた。
肉だった。
それは息をする肉だった。
肉がこちらを見て、
なにかいった。
肉なので分からなかった。
またなにかいった。
飛び掛かった。
襲った。
肉を襲った。
肉は激しく抵抗したけれど、
絡みついて締め上げると、
やがて動かなくなった。
息をしなくなった。
肉は息をしない。
肉は息をしなくなって、
おいしい匂いのする、
ただの肉になった。
喰べた。
夢中で喰べた。
肉は喰べがいがあった。
おいしかった。
とてもおいしかった。
これまで食べたなによりも、
肉はおいしかった。


おいしい肉は、
あたしに似ていた。

なぜか涙がとまらなかった。












           了。



自由詩 「 肉喰。 」 Copyright PULL. 2006-12-22 09:37:42
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