飼育係、或いは荒廃
吉田ぐんじょう



魚は酸素を知らぬだろうか
暗い水辺に輪を描いて
あんなにも深く潜ってゆく


飼育係は放課後に
飼っていためだかを流してしまった
閉じ込められてるのが
可哀相だったって
めだかは排水溝から
かすかに笑い声を漏らしたって


からっぽになった水槽には
みどりがめが入れられた
みどりがめは不思議そうに
四角く区切られた天井を
何時までもぼんやり眺めていた


そのうち
足と首を引っ込めさせた
みどりがめで
蹴球のまね事をするのが流行った
みどりがめは黙ったまま
かちかちと教室を往復した


みどりがめは
埃まみれになって
教室の隅で死んだ
誰かが甲羅をあけようと言ったが
飼育係が泣いて止めた
みどりがめは名前の無いまんま
ごみと一緒に
焼却炉に放り込まれて
終わった


からっぽになった水槽には
ハムスターが入れられた
男子がふざけて踏み殺した
飼い始めてから
三日しか経ってなかった


からっぽになった水槽には

からっぽになった水槽には


飼育係は時折
息を止めてみる
授業中に
休み時間に

魚は酸素を知らぬだろうか
息を止めて一分もすると
空が段々縮んでゆく

死んでいった小さい生き物を
飼育係はそうして悼む

水槽は何時しか忘れ物入れになり
いまは誰かの上履きが
故障したジェット機のように
無造作に突っ込まれている



自由詩 飼育係、或いは荒廃 Copyright 吉田ぐんじょう 2006-12-14 16:21:59
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