さよならは言わない
LEO
古いモルタルの
アパートの二階へ続く階段を
普段どおりに駆け上がる
足音はある意味合図だろう
鍵穴にキーを差し込んで
ここまでは完璧にいつも通り
ドアを開けた途端
部屋はいい匂いに溢れていた
挙げていうなら花の香りだろうか
部屋干しされた洗濯物の柔軟剤の
それその香り
西日が射した部屋は逆光のためか薄暗い
やっと目が慣れた頃
四角い部屋に円いテーブル
部屋の隅に畳まれた布団
綺麗に洗って重ねられた食器
テレビも電話もそのままに
位置した場所はみな同じで
足りないものがひとつある
綺麗に掃除された部屋で
それらが物語っているもの
「さよならは言わない」
確かに
あのとき
きみはそう言ったけれど