白い手 
服部 剛

( ピエロは独りよたついて
ゆがんだ後ろ姿で
( 深夜のネオン街を横切ってゆく 


早朝 夢から覚めると 
そこはネットカフェの個室だった 
昨晩は酔いどれたまま
揺れる地面を歩いていたらしい 

延長料金を精算し 
扉が開いたエレベーターに乗る 

鏡に映る 寝ぐせのはねた 寝惚ねぼけづら


( 微かな記憶に甦るのは 
( 昨夜の飲み屋で 
( 酔っ払った僕の赤い耳にふれた 
( 君の白い手 


  * 


一月ひとつき前 
スポットライトに照らされた舞台に
凛と立つ君は  

「 私は独り、夜の坂道を上る 」 

と闇の客席に語りかけていた 


( ピエロの亡霊が傍らから呼ぶ声に 
( 女は気づかぬまま 
( 暗い坂道を上り続けていた 


  * 


ネットカフェを出た僕は
朝の企業戦士の群から外れた場所に突っ立って
独りパンをかじっていると  
何故か無性に恋しくなって来る 


( 昨夜の飲み屋で 
( ふいに僕の赤い耳にふれた 
( 君の白い手のぬくもり 





自由詩 白い手  Copyright 服部 剛 2006-12-04 19:51:37
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