ジャスコ
吉田ぐんじょう

いまは更地になっている
高校の前から自転車で少しいったところの
あの荒廃した土地には
昔ジャスコが建っていた
しみったれた汚い店だったが
中にはフードコートもスーパーも
一応あって
毎週日曜日になると
父にせがんで
連れて行って貰った

色んなことを学んだ
例えば
ゆびわをしたままてをあらうと
ゆびわとひふのあいだに
ざっきんがはっせいするから
ゆびわをはずしてからてをあらいましょう
とか
クレープは見た目ほど美味しくないこと
とか
安い服は
生地がてろんてろんですぐだめになること
とか

ジャスコが解体されたのは
わたしが中学にあがった年だった
そのあとにはマツモトキヨシが建つとか
タワレコが建つとか
シャトレーゼが移転してくるとか
色々噂がたったけど
人骨のような鉄筋とコンクリートが
すっかり片付けられたあとは
もう何も建たなかった
みんな何だか
期待外れみたいな顔をしながら
それでも無難に中学を過ごした
こんな田舎に
何か新しいものを
期待するほうが間違っているよ
と言ったのは
のぶひこくんだったっけ

今日
自転車でその土地の前を通ったが
相変わらず
荒んだサバンナみたいな更地には
何も建つ気配が無い
それでも見通しはよくなって
遠くの方の歯科ビルと
やはり同じ時期に潰れたパチンコ屋と
希薄なカルピス色の空が見える

電線がノートの罫線のように
空中を走ってさんざめいていた
青信号が点滅している
ためしに
ジャスコ
と呟いてみると
白い息が鳩のように
飛び立っていった

何の根拠もないのに
どうしてだろう
救われたような気持ちになって
マフラーを巻きなおして
少しわらってみる

西へ陽が沈んでゆく


自由詩 ジャスコ Copyright 吉田ぐんじょう 2006-12-04 16:08:14
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