白と黒と赤
カンチェルスキス





 洗車場の男は
 愛する女の血で満たした
 白いバケツを
 廃車寸前の車に
 ぶちまける
 身体の中にあるときは
 女にとって
 機能不全だった血は
 吐き出されて
 車の屋根を濡らす
 ボンネットを濡らす
 フロントガラスを濡らす
 サイドミラーを濡らす
 ヴァンパーを濡らす
 タイヤを濡らす
 割れた室内灯を濡らす
 リヤシートを
 運転席に沈むハンドルを
 助手席のヒールを
 濡らし
 車体の下の影で
 最終的な輪郭を決定し
 満たされる




 廃車寸前の車は
 廃車寸前のままだ
 



 男は輪郭の水面上
 耳を押しつけて
 自分の心臓の音を
 聴いて
 立ち上がる




 照明の白と
 影の黒と
 顔の右半分の血の赤
 溶け合わず
 孤絶の傘下
 浮上するように
 濃く。




 


自由詩 白と黒と赤 Copyright カンチェルスキス 2004-03-28 19:45:02
notebook Home 戻る