川の底に置かれた石
服部 剛

Boy
話のわかる先輩とグラスを重ね 
生意気を言い放っては 
頭を撫でられている

Boy
姉さん達より自分の肌を瑞々しいと言った後
懸命にフォローの言葉で繕って
やっぱり頭を撫でられる

教室では
君の机と椅子だけが
陥没した床に沈んでいる

( 低い目線で見えるのは
  初々しいふくらはぎだけではないだろう )

(「立派な大人」の先生の
  ズボンのチャックに濁った光を
  獣の眼は捉えるだろう )

Boy
列車に乗るということは
登校や通勤を突き抜けた未来へと
線路を伸ばしていくことだ

(君の表情はみるみる青白く変色し
 列車の最後尾の便所に辿り着いては
 吐き続けるだろう )

Boy
夜の教室には
君が旅に出る前に
ナイフの切っ先で文字を刻んだ教科書の
破ったページが
黒板に貼り付けてある

Boy
都会で出会った女達と体温を分け合い
結んではほどけ
離れてはまた愛でようと
腕を伸ばすのだろう

Boy
多くの恋に落ちても君は
丘の上に傾いて立つ 秋の樹木だ
細く折れない幹の周囲に
かさかさ と枯葉を散らし
全身の葉を揺すって詩う
君はたった独りの樹木

Boy
腰のくびれたギターを抱いた君が
新宿の路上で絞る唄声の前を
人波の川は今日も流れゆく

(ひもを結んで投げ放たれる鎌は
 一体誰の心に刺さるだろう )

今朝
僕は不快な目覚めのベッドを降りて
君の言葉を聞く為に
新宿の地下道を抜けて来た

人波の川の流れる真中に
喪服を着た絶望が膝を抱え、うつむいていた

ふいに 置かれていた丸石を蹴飛ばした
黒いつま先が なぜか 心に 痛かった

Boy
もうすぐ僕は
地上への階段を上り
ビルよりも遥かに高い秋空を吸い込み
懐かしい陽射しを浴びるように
君の唄声を
探しに行くところだ







自由詩 川の底に置かれた石 Copyright 服部 剛 2004-03-28 00:16:40
notebook Home 戻る