ロシータ
水在らあらあ







ロシータっていうおばあちゃんは
サンホアンで一番年取ってて
猫にやさしくて
工房の隣の彼女の家には
いつも猫がたくさんいて
使い物にならないボートが
とまっている

今日は対岸のサンぺドロの工業地帯の叫び声がすごくて
おれ達は五年前につくった船のペンキぬりなおしながら
雷かあれは畜生とか言いながら
おれ達は赤と白のペンキにまみれながら
ときどき青空を見上げる

カモメが
あーあって
世を呪った

木でできた船は
美しくて
美しいものには
太陽に中で手を
やさしい手を
かけ続けなくちゃいけない

ペンキをぬりながら
赤と白のぺんきをぬりながら
カモメたちの糞は
何でいつも白いのだろうと考える

じゃあね またね
俺の最後の日
工房で最後の日
また一月に会おうぜ
日本の工具を買ってくるからさ
いやそれより
日本のきれいな女の子を
つれて帰ってくるからさ
この十三人乗りの船を
マルコスあんたが舵とって
十人の日本の女の子と
おれとゴルカで
漕いで
サンセバスチャン沖の離れ小島で
夜を明かそう
この前の夏みたいに

まだ羽の茶色い
若いカモメが
マストにとまった

ウミスズメが遠くで
少しうなだれている

猫たちがロシータの庭で
陽だまりの中で
じゃれあっている
親猫一匹と
小さいのが五匹
九月の潮の満ち引きが一番激しいときに
庭まで沈んで
まだ手のひらに乗るくらいだった
おまえたちが逃げ遅れて
作業用の船を出して助けた
ずぶぬれで
泣きっぱなしで
手に取ったら
ものすごい熱で
震えて

あんなふうにきっと
俺も泣いていたんだろう
おなかが弱かったおれは
何を食べてもだめで
あなたはいつも俺のおなかをさすりながら
じっと俺の目を見ていた
そのときのあなたの顔
まだ若いあなたの顔を
俺は今でも覚えている
きれいなあなたの顔と
おなかをさする手の暖かさしか覚えていないのは
きっといつだってあなたは
おれが寝付くまでそうしていてくれたんだろう
きっと
寝付いたあとも

俺にとって人生は不思議で
それはそれでよくて
いろんなことが説明できたら
それもそれでいいけど
俺はただ不思議なことが
不思議だと感じられればいい

ここでこうして船を作るなんて
ロシータにあんたは私の孫だって言われ
クリスティーナには息子だって言われて
船長にはしごかれて
海に落ちて
何度も落ちて

ロシータもクリスティーナも船長もみんな
あなたによろしくと言っていたよ
あなたにとって
人生はどうだったのだろう
俺がもう帰ってこないって分ったとき
あなたは
俺と兄貴が十歳ぐらいのときが
一番楽しかったって言っていた
みんないっしょで
一番よかったって
気丈なあなたは
笑顔で
泣いて

俺にとって人生は不思議で悲しくて
それはそれでよくなくって
悲しいことには
全部説明がつけばいいと思う

あなたは今でも美しくて
美しい人には太陽の中で
声を
優しい声を
かけなくちゃいけない
かけ続けなくちゃいけないのに

遠くにはいつでも大切なものがあって
遠くに行けばいくほど大切なものがふえて




夜 
ロシータがくれたまぐろで作った
オムレツを食べながら
俺はおまえの瞳に悲しむ
緑の
そのふかい森に








自由詩 ロシータ Copyright 水在らあらあ 2006-11-21 00:40:18縦
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