抱き枕
狸亭

「 ひとりで寝るのは
寝るのじゃないよ
まくら抱えて
横に立つ。」

生きていた時
おやじが謡った
都都逸だ。

習い性になって
毎夜長い枕を抱えて
眠りに就く。

両腕にしっかり抱えて
股座の間に挟みこんで
しっくり良い具合で

空しく
充実して
人生に似て和やかだ。

夜毎夜毎の夢。

ある夜中の夢に
何やら怒りに駆られ
大声で叫んだ。

抱き枕を放りだし
腕が空を切り
右手の甲がしたたかに

寝台の頭部の
湾曲した鉄枠を叩いた。
中指から小指にかけての甲が

紫色に腫れあがった。
しんみりと
痛い。

19990827



自由詩 抱き枕 Copyright 狸亭 2004-03-25 09:38:52
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