それから
ミゼット

襖の向こうには、四人の女が跪いている。

昨夜うっかり部品を落としてしまい
カヤコが動かなくなっている。

僕には珍しく覗き穴ではなく
腹全体を空洞にして、中に赤テントを吊るした。
無くしたのはそのテントを吊っているネジだ。

「カヤコ」
彼女はまぶたを閉じたままだ。
「ああ 困ったな」
堪らなくなって抱き寄せる。

代わりに彼女が答える。
万華鏡が穴の奥で回っているのだろう、かさりかさりと音がする。
「電灯の傘の上に隠したのよ。」
昨日私を吊るしたでしょう、そのときにそこへ置いたのよ。
「違うわ姉さん。その後で私がひやしんすの鉢に置いたのよ。」
むらさきの花が咲いたわ。あなたは気がついていた?
とてもきれいよ。
「それからわたしが靴の中へ入れたの。一番左のよそいきのにね。」
昨日私と外へ行ったときに。
女が身じろぎすると、部屋の中に光が走った。

「心配しなくてもいいよ、
 昨日も一昨日も僕は外に出てはいないし、カヤコは昨日来たばかりだろう」

返事の変わりに三つの歯車が回る。
彼女たちは揃ってほら吹きなのだ。

「ああ それにしても」
早くネジを見つけないと、彼女がやってくる。
テントの無い空洞は、なんて無様なものだろう。
「かわいそうなカヤコ」
僕が不注意だったばっかりに。
内側に描いた青空は、なんて白々しいのだろう。
テントがなけりゃぜんぶ台無しだ。

男は頭を抱えて畳の上へ伏した。
三人の女はその様子をじい、と見ている。
腕の隙間からカヤコのしろい腕と脱がせた服が見えた。
あのシャツは、僕が買ってやったのだ、と男は視線を走らせる。
その先には。
ああ、そんなところに。

約束の時間が迫っている。
女たちは微笑むと隣の部屋へ静かに消えた。
男は身を起こすと、ネジを拾い上げ、カヤコの腹にテントを吊るした。
歯車の回る音と共に、女が目を覚ます。

「ねえ、わたし昨日夢を見たわ」
「百合の匂いがする夢よ」
「なあに、ここを開ければいいのね」

 ((知らない女の人がいる))

「鳩子、君は鳥籠にしよう」


自由詩 それから Copyright ミゼット 2006-11-16 23:00:41
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