車窓
青山スイ
ここは田舎町だから
電車の中はいつもの様子
ポツンポツンと
どこに座れば良いのか
迷ってしまう
どうせ辿り着いてしまう
ガタンゴトン
揺れる
窓の外には
見慣れているという
ささやかな安心があって
線路沿いの道を
トラックが走る
農作物が
有無を言わさず
運ばれていく
感謝の気持ちは
よく忘れてしまう
踏切の音を合図に
若い男と女が
名残惜しそうに
手を振って別れる
足りなかった時間だけが
その場で一人歩きする
流れる風景の一部として
昔からソコに在った
定食屋は
取壊されて
コンビニという
ありふれた個性に
姿を変えた
寂しいという言葉に
意味はなかったし
嘘すらもなかった
車内では
眼鏡をかけた老人が
分厚い本と睨めっこしている
学生服を着た青年は
何かを思い出そうとしているのか
必死にペットボトルを握りしめている
子供が空を指差し
飛行機、と言う
母親は子供の髪を
優しく撫でて返す
そして
数十分後
もしくは
数分後
向かうべき駅の名前が
告げられると
僕らは
やあ、とも、じゃあ、とも言わず
窓の外に溶け込んでいく