変貌する女
吉田ぐんじょう
毎年この時期になると
瞼が退化するので
夜は
眼をあいたままねむる
口をあいていると
小さい生物の死骸が入るから
歯はくいしばるようにしている
深更
瞳孔がうっとりとひらき
白眼がしらじらと冴え渡る
そうなると最早
何も解らなくなって
フェード・アウト
朝起きると
首に噛み痕がついていたり
腕が一本増えていたり
羽が生えていたりする
が
もう既に
そう成ってしまっているので
仕方が無い
騒ぎ立てたりはしない
わたしは
ひとつ欠伸をして
諸々ひっつけたままで
ラジオ体操をやる
冬が深まると
瞼だけじゃなくて
もっと色々退化するので
今のうちに体力を付けて
酷いことには負けたくないので
深呼吸をして
腕を降ろすと
羽がばさっと取れた
三本めの腕で拾い上げ
庭の隅で
落ち葉と焼いた
真っ直ぐに上がった煙は
遥か上空で
飛行機雲と交差し
まばたきをしようとしたけれど
涙が湧いただけだった