ここにいること
青山スイ

知らない町にやって来て
四畳半のアパートで暮らす
目に映るモノは
何もかもが新鮮で
同時に僕は
どうしようもなく
一人であることを
実感する

部屋
かつて人が住んでいた部屋
その歴史を知ることもなく
始まりを迎えることになる
もちろん
起源については何も知らないし
起源の起源についても知らない
気がつけば僕はそこに在って
笑ったり泣いたりする

散歩
知らない道があって
知らない家が並ぶ
年老いた犬が歩いている
とりあえずは彼の名前を
ジョニーだと仮定する
やあジョニー 良い天気だね
ジョニーは僕に目もくれず
トボトボと歩いていく
恥かしがり屋なのかもしれないし
もう時間がないのかもしれない
前だけを見つめて
ジョニーは歩いていく
その先に何があるのか
彼はすでに
知っているのかもしれない

コンビニ
しばらく歩くとコンビニがあった
中に入ってみると
様々な消耗品が丁寧に並んでいた
彼らは息を潜め
ひっそりと何かを待ち続けていた
僕はその中から
缶コーヒーとサンドイッチを選ぶ
彼らが待っていたのは
僕ではないのかもしれない
でも仕方がない
彼らには選べない
そして結果だけが残る
レジに向かうと
店員と目が合った
綺麗なお姉さんが微笑む
おそらく僕は
この店に通うことになるのだと思う

帰り道
見たことのある道があって
見たことのある家が並ぶ
それでもまだ
わからないことだらけで
道端に転がっている
色褪せたテニスボールに
込められた願いも
電柱に書かれた
愛してるという
落書きの意味も

部屋
帰り着いた部屋
特に変わった様子はない
僕が加わっただけの話だ
窓を開けると
辺りはすっかり暗くなっていて
何やら遠くで
生命のようなものが
チカチカとしていた
誰か住んでいるのかもしれない
僕は夜空を見上げたまま
まだ見ぬ世界を思い描く

空白をイメージで埋めていく

ハロー ハロー
聞こえるか
僕はここだ


自由詩 ここにいること Copyright 青山スイ 2006-11-13 01:11:31
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