ベットの上の人形
AKiHiCo

一、
どうしますか、
白衣を纏った医師は無機質な言葉を落とした
無数のチューブで繋がれた身体
ベットの傍らで静かに音をたてる機械類
瞼を重く閉ざしたままのキミは
手を握っても握り返してきてはくれない
今でも生きているのかな、

二、
あと三日以内に返事をお願いします
医師はカルテを眺めながら溜息をつく
二人きりになった病室で
キミが瞼を開けてくれたらと
そう密かに思ったけれど
蒼白した瞼の上では
環を描きながら光が踊るばかり
キミの願いは何、

三、
安っぽいカーテンを開けると
ビロォドの宙が街全体を侵食している
そこに星なのかイルミネイションなのかが
煌きを放ちながら我の美しさを競っていた
寒い季節の宙では星たちが一層美しく見える
もうすぐクリスマスだから街は電飾で彩られて
どこかに在るはずの境界線を越えてそれらが交じり合う
去年は確か一緒に僕の部屋でクリスマスケーキを食べたよね、

四、
キミが望むのなら僕はキミの願いを叶えてあげたい
僕がこの手でキミを終わらせてあげたい
キミの事を何も知らない者になど
その生命を吹き消す資格はない
機械の力だけで呼吸をして心臓を動かされている
自分の意思さえ感情さえ出せずに
ただ硬いベットで横たわる
僕はキミを解放してあげたいんだ、

五、
窓を全開にしたら冷たい風が部屋を満たしてゆく
カーテンがはためいて床に白と黒のコントラストを作る
機械の一つの電源を落としたら
キミが数ヶ月ぶりに微笑んでくれた
弱弱しい表情だったけれど幸せで満ちているように
僕の眼にはそう映った
花瓶に飾ってあった黄色いガーベラを一輪取り出して
キミの胸元へ捧げる
これでキミも解放されたよね、

六、
医師と看護士が慌てて部屋に駆けつけてきたけれど
僕が天国へ導いてあげたから
今頃はそっちで昔みたいに元気にしているはずだ
わざわざそんな事をしなくても
どうせ後三日も持たなかったのに、
医師がカルテに何かを書いている
まぁこれでキミは殺人を犯した事にはならないから、
延命措置打ち切りの件を書いていたようだ
どうかキミが向こうで幸せに暮らせますように、

七、
何事もなかったかのように過ごす毎日
変わった事と言えばキミがいないという事
今日の朝食はトーストと牛乳
昨日も同じ物を食べた


自由詩 ベットの上の人形 Copyright AKiHiCo 2006-11-12 04:51:24
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