命の音
杉菜 晃
栗林沿ひの道を歩いて行くと
コツンと固い音が
地に弾けてやんだ
少し行くと
また同じ音がして
生きものめいて
転がつていくものがある
――栗の実――
柵の中を窺ふと
緑陰のをちこちに
茶褐色の生きものが
身を潜めて薄光りしてゐる
風があるのでも
栗鼠や鳥がゐるわけでもないのに
栗の実は
仲間と連絡を取り合ふでも
予告するでもなく
落ちてくる
静けさを破る
一瞬のかそけき命の音
一粒一粒は
自分の時を知つてゐて
高みから地へと降つていく
嫁入り娘のやうに
一生のうちで
最も艶めきながら