路上
杉菜 晃
市場通りに一尾の魚が落ちてゐる
眼は赤く悲しげに潤み
視線を曇天へと彷徨はせる
そして
路面についたもう一方の眼は
闇の地の深みを透視してゐる
魚は期せずして
天国と地獄を
同時に見ることとなつた
魚よ
数奇な巡り合せを
嘆いてはならない
恵みは
信じて願ふものに
必ず訪れるものだから
雷鳴につづいて雨脚しげくなり
魚は雨に打たれ
見る見る銀色に輝いていく
時の間の後
尾鰭で地面を一打ちすると
魚は滝のぼりよろしく
雨脚に向つて翔のぼつていく
一路
雲を突抜けた高みへ
海の青とは異なる青の中へ
だが
私が実際に目撃したのは
海上を水切りするやうに
沖へと駆けていく
蘇つた一尾の魚だつた