捨て金魚
嘉村奈緒



捨て金魚をした

近所に川がなかったので
人の多い駅前に捨ててみた
金魚だってわかってもらうために
「大学と手毬です 可愛がってください」とでっかく書いた
気になって一日に何回も駅にいった
箱からはみ出た尾っぽが
たまにピクピク動いているのを見る度に安心した
良かった、まだ(捨てられて)いるって
そうか、これが安心というものなんだって
雨が降った日なんかは慌てて見にいった
金魚が喜んで逃げてしまったらどうしようって
でも尾っぽがあった
動いていなかったし箱の字は滲んでしまっていた
それでもそこにいるとわかったから
家に帰った
空っぽの水槽が家にはある
隅っこに苔が生えているけど水は入っていない金魚もいない
なぜなら 捨てたから
そうしてまた駅に見にいく
すでにぐっしゃりしてしまった箱から
はみ出ているはずの尾っぽが見当たらなかった
近寄って中を覗いた
大学も手毬もいなかった
掃除夫が黒い大きなビニール袋を持っていた
家に帰って水槽にたっぷり水を入れた
急に悲しくなってしまって
水槽を抱えたまま泣いた
ずっと泣いた




自由詩 捨て金魚 Copyright 嘉村奈緒 2003-08-03 05:36:04
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