久美さんの脚
渦巻二三五

二本の脚は胴につながっています
不潔
と言って男子の机に触れようとしない久美さんも
二本の脚がちゃんと胴につながっています
白い足首をつかみ
柔軟体操をしています

久美さんは高校生になりました
教室は女の子ばかりです
不潔でなくてよかったね
とわたくしが言うと
両手の指の何本かを不思議に組み合わせて
ここ握ってみて
と差し出しました
その指の束をおそるおそるつかむと
これくらいの太さなんですって
と言って久美さんがにやりと笑ったので
わたくしはぎょっとして手を離しました

美しい少女だった久美さんは
当然のように
美しい女になりました
振り返る人たちは
白いひかがみを見るでしょう
その先は一つ
胴につながっているのです

久美さんが結婚しました
中学校で同じ教室にいた
秀才君と夫婦になりました
教室の机のことは
忘れてしまったのでしょう
これくらいの太さ?
あの汚らしい机

わたくしにも脚があります
お出かけのときはストッキングで覆います
つま先とかかと
それから脚のかたちに引き上げるのです
二本の脚の根本がどうなっているのか
わたくしは知りません
たぶん久美さんも
知らないでしょう

わたくしたちはこっそりお人形のスカートをめくりました

お布団のなかに手を入れてはいけません
と寮監先生がおっしゃったのは
二本の脚の根本を
確かめてはいけないからです



     
初出:1997.12.5. @nifty 現代詩フォーラム
 


自由詩 久美さんの脚 Copyright 渦巻二三五 2006-11-07 12:45:44
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