偲ばれる日々への想い −追悼、いかりや長介−





なぁ、注さん。ちょっと、話をしようか。
高木と志村は、浮世のしがらみというか・・・仕事で、ちょっと来れないんだよな。
加藤は、あいつ、渋滞に巻き込まれているんだ。
(中略)
注さん、いつかまた、ふたりで呑もうや。
場所は、お前が決めといてくれ。
(中略)
じゃ、いずれ。



・・・荒井注さん告別式の映像が、朝のニュースで流れていた
部分、部分 うわずる声を押し留めながら
長さんは、友に別れを告げた


今、ふたりして
赤提灯の暖簾をくぐった先、猪口をひと干し、ふた干し
互いに傾け、交わし合いながら
久し振りの再会

注さん、とうとう来ちまったよ。
何言ってやがんだ、長さん。遅いよ、待ちくたびれたよ。


卵とちくわぶ 大根に、牛すじ
よく染みている、出汁の海から覗いた先
皆の顔が
じわじわ、じわ、と



バカヤロー!!
収まりきらない高ぶりで吠える、ブーの皺くちゃの顔
押し黙って堪えている、加藤、真っ赤に染まる鼻先
崩れ落ちる仲本、熱で曇った眼鏡
ひとり酒に浸って、夜空を見上げる志村の目頭
震える喉仏


想いの丈が、あまりにも熱気を帯びるものだから
湯気から思わず顔を放す

うーん、よく見えなかったけれど
あいつら、大丈夫かな、上手くやってるかな
そんな心配など、すぐに杞憂だと気付かせてくれるさ、と
勧められる美酒に
酔いしれてしまえばいい

浮世のことは、浮世の人間に任せておけば良い
しがらみから解き放たれた、今
しこたま、しこたま呑もうや
なあ、長さん。





享年、72




・・・先週の特番で、癌の特効薬が
近い将来に完成されると、話されていたのを思いだす
時の流れは、時にこんなにも残酷なのか、と
誰しもが、噛み締める中で
ifを考える
でも、

きっと、長さんの手元に
未来の薬が届けられていたとしても
これは未来に使ってくれと
叱られるような

そんな、気がして








何も

何も、出来ないけれど 目を閉じれば


綴じた先々で、口を尖らせている、笑っている
そんな、貴方の顔が
顔が
鮮明に浮かび上がってくるものだから

枯れた熱い吐息ひとつ
上ずっている、かすれ声に乗せて
喉元から、吐き出した


言葉

・・・だめだ、こりゃ。








次、いってみよう。の言葉が出ない

声に、ならないから・・・


だめだ、こりゃ

だめだ・・・、だめだ・・・。







告別式
出棺のクラクションは今生の遠吠え

せめて、8時だヨ!全員集合、のオープニングに乗せて
貴方を送りたいと


黙祷。






(未完)


未詩・独白 偲ばれる日々への想い −追悼、いかりや長介− Copyright  2004-03-22 20:09:51
notebook Home 戻る