木立 悟


流れつづける灰空に
鴉が小枝をさし出している
遠く けだものの声が響いている


水はじく透明
もう積もることのできない雪
街の背中に降りしきる


ひとつ またひとつ
雲は途切れることなく陽を隠す
短く晴れた空の下
風はすべてに気まぐれに痛い
まわりに現われはじめたものたちの
名を呼ぶくちびるは動かない


鏡から鏡へとこぼれ落ち
分かれつづける季節から
絶対に燃えるはずのないものが
その音とともに燃え上がるとき
左目に重ねた左手を
そっとそっとずらすとき
左目の奥の奥にだけ
赤い雪は降りつづく


まわる まわる
朝の火 水の輪
鴉のはばたき
けだものの声
青く狭まる空の下
飛ぶことのできない十二の羽
燃え残る小さな音たちを抱き
静かに雪の陽を歩む
静かに雪の背を護る




自由詩Copyright 木立 悟 2004-03-22 09:10:16
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